2025年開催、国立新美術館「日本の現代美術と世界 1989-2010(仮称)」の詳細が明らかに。アイデンティティ・記憶と反記憶・関係のネットワークの3部で日本の現代アートをとらえ直す
日本の現代アートを複数の視点で読み解く
国立新美術館は2025年9月3日から12月8日にかけ、香港の現代美術館 M+(エムプラス)との初の共同企画により、「日本の現代美術と世界 1989‒2010(仮称)」を開催する。これに先駆け、国立新美術館で記者発表が行われた。参加したのは、同館館長の逢坂惠理子、本展キュラトリアル・ディレクターであるドリアン・チョン(M+アーティスティック・ディレクター、チーフ・キュレーター)、本展キュレーターのイザベラ・タム(M+ビジュアル・アート部門キュレーター)と、尹志慧(国立新美術館特定研究員)の4名。 まず逢坂からは、本展開催の経緯として「日本の現代アートを複数の視点で読み解きたかった」という意図があったこと、2022年にチョンにキュレーターとして参加してもらうための打診を行ったことが明かされた。 M+は日本のアーティストの作品も多数収集しており、チョンは工藤哲巳ら日本のアーティストの個展企画経験もある。こうした背景から今回協働の運びとなったという。 続いてチョンからは、M+が「アジア初の視覚文化に特化したミュージアム」であるという前置きのもと、そのなかでもコレクションの構成比は日本の作家が多くを占めるということが語られた。その理由について、「歴史と圧倒的な存在感を持っているから」とし、続いて、「逢坂さんからお話をいただいたとき、引き受けることはM+という組織としても重要なことだと思った。また、日本人でない私に声をかけていただいたのは大胆で勇気のあることで、その意味を重要視しています」と、声に責任感を滲ませた。
平成の始まりから東日本大震災が起こった2011年まで
本展は、世界で冷戦が終結し、昭和が終わり平成元年を迎えた1989年と、東日本大震災に見舞われた2011年という大きな節目に挟まれた20年間の日本の現代アートを概観するというもの。「アイデンティティ」「記憶と反記憶」「関係のネットワーク」(仮)の3部構成で、国内外で活躍してきた日本のアーティストと海外のアーティストの作品がともに紹介される。 「アイデンティティ」という観点からは、複雑に変化し続ける日本の現代アートの姿にフォーカス。伝統と革新の融合をめざす実装や、文化やジェンダーの多様性という同時代の議論に結びつく実験、そして若者文化や大衆文化の感といったトピックから、日本と西洋という二項対立に疑義を呈しつつ、日本美術を特異なものとする考え方を再後討するという。参加作家のひとりとして、森村泰昌が挙げられた。 「記憶と反記憶」では、日本の過去に関する個人的・集合的記憶に当てる。十分に語られてこなかった地層を堀り起こし、歴史の真実性や国内外に広がる権力構造をめぐる緊張感を明るみに出すようなリサーチとフィクションが構築する作品群を通して、大文字の歴史に検討を加えることを試みる。「日本はドイツと同じくらい、自国の過去に向き合い続けてきた側面があると思う」というチョン。小泉明郎が展示予定だという。 「関係のネットワーク」では、本展の対象とする 20年間がグローバル化の最初期にあたり、国を越えた活動や人の移動が盛んになった時期であることに焦点を当てる。アーティスト、地域社会、国際的なアート・コミュニティによる多様なコラボレーションによって異文化間の交流を可能にする緊密なネットワークが築かれ、現在につながる社会参加型実践の基盤が用意されたというこの時代の特徴を紹介する。ここではそれぞれ日本、中国、韓国というバックグラウンドをもつ小沢剛、チェン・シャオション、ギムホンソックからなるコラボレーションチーム「西京人」の名前が出された。 本展は以上のような構成によって、日本の現代アートが歴史的遺産やアイデンティティの多様性といった主題にいかに取り組み、新しいコミュニティの可能性を模索してきたか、そして日本の美術と視覚文化がどのように世界に影響を与えてきたかを考察するという。
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