【オールブラックス来日記念短期集中連載②】NZが奮い立ち、相手が畏怖するハカを目撃せよ
ラグビー日本代表とオールブラックスの試合がいよいよ10日後に迫った。『リポビタンDチャレンジカップ2024』が10月26日(土)・日産スタジアムにてキックオフを迎えるのだ。先週から毎週水曜日にオールブラックスの魅力に迫るコラムを紹介しているが、短期集中連載の2回目ではハカをピックアップしていきたい。 【PHOTO】ハカと対峙する日本代表 11年前、『リポビタンDチャレンジカップ2013』を前にしたエディー・ジョーンズHCはオールブラックス対策をこう語っていた。 「ハカを見る時の態度が大事。ニュージーランドはハカで世界一のフィジカルをアピールしてくる。その時に我々は恐怖に飲まれてはいけない。彼らがハカをしている時も、我々はただ試合の入り方を考えていればいい」 ジョーンズHCがNZ対策に挙げるほど、ハカは重要なのである。大会前にジョーンズHCが脳梗塞で入院したため、日本のハカ対策は見られなかったが、6年後にチームも舞台も変えて実現した。 10月26日・横浜国際総合競技場での『ラグビーワールドカップ(RWC)2019』準決勝で、TJ・ペレナラのリードの中、ハカが始まろうとしたその時、イングランド代表の面々はV字の陣形でハカを取り囲もうとしたのだ。ハカへの奇襲でオールブラックスが動揺したのか、イングランドは開始1分半でノーホイッスルトライにマークし、主導権を握った。 V字の中央でオーウェン・ファレル主将が不敵にニヤリとしてシーンは大会を象徴する名場面のひとつとなった。『RWC2019』のハイライトを演出したジョーンズHCは後日、思い描いていたアイデアを明かした。 「私のアイデアでは、自陣の10mラインを越えないように半円を描いて、ハカを受け止める予定だった。だがハーフウェイラインを2、3人の選手が越えてしまい、半円ではなくV字になってしまった。ハカによるチャレンジを受けたかったし、観客にもワクワク感を与えたかった。オールブラックスがハカを演じる時、対戦相手は立ったまま拍手を送るのがこれまでの定番だった。でも、私はハカに応じることで、『この試合は何かあるぞ』というメッセージを観客に送りたかった」 7-19で敗れて、『RWC』3連覇の夢が断たれたスティーブ・ハンセンHCはイングランドのハカ対策を絶賛した。 「イングランドの対応はファンタスティックだった。ハカというものを理解したらわかるのだが、ハカには反応が必要。ハカは選手個々への挑戦でもある。そこで相手は対抗しなければいけない。あの反応は見事だったと思うし、かなり独創的だった」 2019年のイングランド代表だけではない。『RWC2011』決勝の舞台でフランス代表は矢印の形から前進し、横一列になって、ハカへ詰め寄った。2008年のウエールズ代表はハカが終わっても数分間微動だにせずオールブラックスの興奮が冷める時間を稼いだ。1996年の『ブレディスローカップ』でオーストラリア代表は無視を決め込んでウォーミングアップを敢行したり、1989年のアイルランド代表は腕を組んで相手に触れるほどに前進を続けたなど、これまで多くの代表チームがあの手この手でハカを無力化しようと試みてきたのだ。これはライバルたちがハカを恐れていることの裏返しである。 そもそもハカは先住民マオリの伝統的な踊りで、生命の祝福として始まり、儀式や戦闘に臨む際にも披露されてきた。ラグビーの試合において、初めてハカが披露されたのは1888年とされる。ニュージーランド・ネイティブ代表が翌年にまたがる豪州・英国遠征を行い、そこでハカを披露したとの記録が残っている。1905年にはオールブラックスが英国遠征を実施、ここで「カ・マテ」が初披露されたのだった。「カ・マテ」はマオリのナティ・トア族の首長テ・ラウパラハによって1820年に作られたハカであるのに対して、もうひとつのハカである「カパ・オ・バンゴ」は2005年に新たにオールブラックスのために作られた。 世界中広く知れ渡る「カ・マテ」は使用頻度が多く、「カパ・オ・バンゴ」はここぞという試合で披露される特別なハカだと思われる節があるが、選手たちはやんわり否定した。どちらのハカを舞うかは、キャプテンやリードが会場の雰囲気などから決めるのだと言う。では、なぜ「カ・マテ」が多いのか。メンバーに新人がいた場合、その新顔が「カパ・オ・バンゴ」を正確に舞うことに労力を取られないためである。こどもの頃から舞ってきた「カ・マテ」はニュージーランド人ならば、体に染み付いているのだ。 NZ代表125キャップを誇り、長くリードを務め、今はリーグワンのトヨタヴェルブリッツに所属するアーロン・スミスは常々こう語ってきた。 「ハカは私たちのアイデンティティの一部。ハカはマオリ族のものだけではない。この国に暮らす全ての人々のものであり、私たちの一部」 A・スミスの後のリードを務めたTJ・ペレナラはハカをこのようにとらえていた。 「ハカは自分にとって最も大切なこと。敬意を表すパフォーマンスの象徴で、対戦相手だけではなく、家族やマオリやニュージーランドの人々というハカとともに育ってきた人たちに、メッセージを伝えるもの」 オールブラックスの黄金時代を築いたリッチー・マコウ&ダン・カーターはハカについて次のようにコメントしている。 マコウ「ハカは国歌と同じように大切なもの」 カーター「ニュージーランドに生まれた私たちにとってハカは特別なもの。我々のDNAであり、我々は何者なのかを示す行為。ハカを何度経験しても、毎回同じように特別な瞬間」 オールブラックス最多153キャップを誇り、今季から埼玉パナソニックワイルドナイツのアドバイザーに就くサム・ホワイトロックのハカ評はこうだ。 「私はハカをすると毎回鳥肌が立つ。ハカにはオールブラックスが100年以上行ってきた伝統がある。私にとって、ハカは試合前に欠かせないもの。チームメイトや周囲の人たち全員を代表する気持ちで毎回臨んだ」 オールブラックスのレジェンドたちですら、毎回鳥肌を立たせ、血がたぎらせ、時には涙を流すほどに高揚させるハカ。一瞬でスタジアムの空気を一変させるハカを10月26日(土)・日産スタジアムで目撃してみてはいかがだろうか。『リポビタンDチャレンジカップ2024』日本代表×オールブラックスのチケットは発売中。