「『コナン』の和葉役を降ろさせてください」声優・宮村優子 橋本病で「声が出ない」引退を覚悟した日
ところが、仕事で日本に帰国した際に久しぶりに会ったマネージャーと話していたら、「ろれつが回っていないよ。すぐに病院に行ったほうがいい」と言われたんです。病院で検査をしたら、橋本病と診断されました。夫が気づかなかったのは、いつも一緒にいたから、私の異変を見逃していたのかもしれません。 バセドウ病も橋本病も甲状腺の病気ですが、バセドウ病は血中の甲状腺ホルモンが多くなり、橋本病は甲状腺ホルモンが減少します。どちらの病気も、発症原因ははっきりわからないのだそうです。ホルモンバランスが崩れやすい産後の女性がかかることが多く、併発する場合も少なくないようで。私はオーストラリアに移住後、一家の大黒柱として家計を支えていて、そのストレスが大きかったのかもしれません。
■「声が出ない」声優引退を覚悟した日 ── 日本とオーストラリアを行き来しながら仕事と育児と両立するなかで、病気にかかってしまうという状況は、本当に大変だったと思います。 宮村さん:橋本病にかかり、一番困ったのは飲みこむ力が弱くなったことです。ろれつが回らなくなり、ちゃんと声が出なくなってしまいました。声優としては致命的です。投薬治療を行えば、いずれ改善するだろうとは言われていたものの、いつよくなるかわかりません。声優の仕事は大好きだったし、担当していたキャラクターはどの子たちも愛着がありました。ずっと続けたい仕事でしたが、一時期は「こんなに声が出ないならもうムリだ、引退しよう」と思いつめていたんです。当時、定期的に取り組んでいたのが、15年近く担当していた『名探偵コナン』の遠山和葉役。プロデューサーに「病気で声が出なくなってしまいました。和葉役を降板させてください」とお願いしました。
ところが、プロデューサーは「治るまで待っています」と言ってくれたんです。その言葉が本当にうれしくて、「早く現場に戻れるように頑張ろう」と前向きに治療に取り組めるようになりました。治療を続けて1~2年くらいで体調がようやく戻り、復帰することができました。 ── 2017年に公開された映画『名探偵コナン から紅の恋歌』で、和葉はメインキャラクターとして活躍しています。 宮村さん:無事に映画が公開されたあとの打ち上げで、スタッフさんやキャストさんの前で「治療中、待っていてくださってありがとうございました。おかげで体調もよくなりました。『から紅の恋歌』では、和葉を精一杯演じたことが私の恩返しです」とあいさつをさせてもらいました。待っていてくれる人がいるのは、ものすごく励みになりました。コナンの現場は本当に温かくてアットホームな雰囲気なんです。その場所に戻れたのは、本当に幸せなことだと思います。私を待ち続け、受け入れてくれた人たちの思いに応えるためにも、どの仕事も全力で取り組んでいこうと改めて決意しました。