松下幸之助が、高額で買った「ラジオの特許を無償で公開」した理由
命がけの物づくり
あるとき、製品検査本部の責任者が、幸之助に呼ばれた。 「近ごろ、ときどき不良が出ているようだが、きみのところではいったいどういう製品検査のやり方をしているのかね」 「はい、2年前まではできあがった新製品をいろいろとテストしておったのですが、不良の原因を分析してみますと、結局、設計や試作の段階に問題がある場合が多かったのです。そこでわれわれの審査を、製品ができあがってからするのではなく、もっと早い段階で実施して、不良が出ないように努めております。いわゆる川下の問題を、川上にまでさかのぼって審査をし、不良防止をはかっているのです」 しばらくじっと考えていた幸之助は、やがて口を開いた。 「きみ、そらあかんで。わしは、きみのところで、そういう設計とか量産試作品とかの審査をやるところに、不良が起こってくる原因があるんやないかと思う。というのは、今は新製品の設計や試作品ができたら、みな製品検査本部へ持ってくるやろう。それをきみのところがオーケーしたら、これでいいということで、つぎに進む。 その結果どうなっているかというと、製品検査本部が審査をさかのぼってすればするほど、みんなが製品検査本部という一つの機関に依存してしまっている。そこに安易に物が生産され、不良が出る元凶があるんや。 だからきみのところでは、途中での審査はいっさいやめたまえ。新製品をつくっていよいよこれから発売するという時点で、きみのところが味見したらいい。この商品を出していいか悪いかということをきみが判断して、これは出したら具合が悪いと思ったらストップをかけたらいい」 「しかし、そうするとその段階では、もう材料も手配しています。金型もつくっています。生産体制も組んでいますし、発売予告もやっています。そういうときにストップをかけたら、会社は膨大な損害をこうむることになりますし、対外的にもご迷惑をおかけすることになります。ですから、お言葉を返すようですが、私どもはさらに一段と川上にさかのぼってやっていきたいと思うのです」 「いかん、いかん。きみのその考え方が不良を生んどるんや。きみのところでそういうことをやると、本来命がけで物をつくらなければならない事業部長が製品検査本部に依存することになる。それでは、いい物ができるはずがない。確かに、きみのところでストップをかけたら、莫大な損になるかもしれん。 しかし、事業部長が命がけで物をつくったら、そんなことは滅多に起こらんよ。また万一、ストップがかかって大きな損害が出たとしても、その事業部長は二度とそういう損害を起こすような愚は犯さないようになるよ」