鈴木宣弘×森永卓郎 我慢して都心に住む時代が終わり、労働者になる以外に稼ぐ手段がないと危険に…森永「暮らしを維持したいなら働く時間をより増やさなければならなくなる」
農林水産省の発表によると、2022年度の日本の食料自給率(カロリーベース)は38%だったそう。そのようななか、「いざ食料危機が起きたとき、大都市の住民は真っ先に飢えることになる」と訴えるのは、経済アナリストの森永卓郎さん。そこで今回は、東京大学特任教授・鈴木宣弘先生と森永さんの著書『国民は知らない「食料危機」と「財務省」の不適切な関係』から一部を、お二人の対談形式でお送りします。 【写真】鈴木宣弘さん「すべての人が農業に関わりを持って、楽しく暮らせるような社会になれば、多くの問題が解決すると思う」 * * * * * * * ◆「助け合いができない人」は次の時代に詰む 森永 うちは野菜をほとんど買わないのですが、冬場は収穫できないので、自分で作った分では足りないんです。でも、隣の人から交換してもらったり、分けてもらえるのでなんとかやっていけるんです。 隣の人はもう80歳を超えているんですけど、農業マニアのような人で、自然薯も作っているんです。 自然薯って土の中深くまで伸びるから、収穫が難しくて、普通は土の中に雨樋のようなものを斜めに這わせて、自然薯が深くまで伸びないようにする。でも隣の人は、そのやり方は自然の摂理に反すると言って、下へ伸ばすんですよ。 当然、収穫時は160センチほども掘らなきゃいけないので大変(笑)。 ほとんど土木作業なんですけど、それでも自然な方法にこだわっている。そんなやり方でもお互い助け合っているからやっていける。 鈴木 なるほど。まさに「連携」ですね。 森永 私はずっと東京で仕事をしてきたので、これまであまり地域社会と関係をもたずに生きてきた。でも、畑をやるようになって、近所の人たちとも付き合うようになったんです。 「自立」し、人と「連携」しながら、クリエイティブな仕事をする。農業はアートだと言っているんですが、まさに自分の創造性を自由に発揮できる舞台なんですよ。
◆好きなことをやって人生を楽しむ時代 森永 ちょっと脱線しますが、私は大学でも教えていますし、ラジオやテレビの仕事もしている。 実は童話作家や小説家でもあるし、落語家もやっているんです。最近はミュージシャンの仕事も始めて、「目指せ紅白」と言っています。ぜんぜんお金にならないんですけどね。 でもこのあいだ、ついに東京国際フォーラムのホールAで、4000人の観客の前で歌いました。ラジオのイベントだったんですが、もうすっごく気持ち良くて。 鈴木 すごいですね。あらゆる分野を網羅しつつありますね。 森永 次は東京ドームだと言って、ラジオ局には嫌がられているんですけどね。 私の話はさておき、いずれ皆がそんなふうに生きる時代がやってくると思うんですよ。 我慢して都心に住み、資本家に労働力を売り渡す生活はいずれ終わり、皆が好きなことをやって人生を楽しむ時代がくる。 逆に、労働者になる以外に稼ぐ手段がない人は今後危険だと思う。税金と社会保険料がどんどん上がっていますから。そうなると、これまでの暮らしを維持するために、働く時間を余計に増やさなければならなくなる。 いまの政府は滅茶苦茶です。日本の年金制度は危ない。 5年に1度、財政検証と言って年金制度が持続できるかを調査するんですが、いまのままだと2040年には男性の半数は年金では暮らせず、75歳まで働くことになるんです。 でもいま、男性の健康寿命って72歳台(2019年)なんですよ。介護施設から仕事に行けというのか。 問題は、そんな社会で生きるのが幸せなんですか、ということ。私は畑をやっていれば幸せ。自由だから楽しいんですよ。