仙台育英でも、青森山田でもなく…ホームラン「0」で東北制覇!? 高校野球“伏兵の7年ぶり東北大会優勝”に見る「飛ばないバット」時代の新潮流
発するコメントは謙虚であっても、その声色はどこか自信を覗かせているようでもある。 【現地写真】仙台育英、青森山田の強豪校を連続撃破…まさかの「7年ぶり東北大会優勝」の“伏兵”ナインはこちら&激戦の東北大会決勝「勝負を分けた決死のホームイン」の決定的伊瞬間も見る 今春から正式採用された“飛ばない”とされる低反発バットについて、聖光学院の監督である斎藤智也に尋ねると、こう返した。 「“聖光学院規格”なんだよ、ふふふ。うちの野球がフィットするようになったのはありがたいと受け止めているけどね」 今秋の東北大会。聖光学院は7年ぶり2度目の優勝を果たし、明治神宮大会への切符を手にした。記録に目を向けると、4試合を戦い43本のヒットが出たがホームランは0本で、長打もツーベース5本のみだった。一方でバントは13、盗塁6、四死球17と、脚や小技などを駆使した繋ぎの野球が光った。
小技を駆使した細かい野球…聖光学院の「お家芸」
これらは低反発バットによる恩恵ではない。聖光学院が貫く野球があればこそ、なのだ。 この“お家芸”が生まれるきっかけとなったのは、2001年の夏。初めて甲子園に出場した聖光学院は、初戦で明豊を相手に0-20と歴史的惨敗を喫した。ここから全国で勝てるチームを形成していくと誓った斎藤がチームに根付かせていくのが脚であり、代表的な戦術を挙げると「ロケット」となる。 ノーアウトまたは1アウト三塁などの得点機で、バッターがボールにインパクトした瞬間にランナーがスタートを切り、ホームを陥れる――これを体に染み込ませた聖光学院は、2度目の甲子園出場となった04年夏に2勝を挙げ、ベスト16まで進出した。 機動力やバントを使った小技を駆使した細かい野球は、聖光学院にとっての「最低限」となった。そして、これらを選手に仕込む上で重要となるのが育成システムである。 1年生を主体とした育成チームで基礎を叩き込まれ、2年生中心のBチームで熟成され、ベンチ入りメンバーほか最上級生で組まれるAチームで昇華させる。これらが濃密に進むからこそ、聖光学院は甲子園で通算29勝を挙げられているのである。 普段はBチームの監督を務め、部長としても全体を把握する横山博英によると、今年のチームは「野球の理解度が高い」と言う。 「今の2年生が入学した去年の春の段階で、今年から低反発バットが導入されることはわかっていたから、練習からずっと新規格のバットを使わせていたんだよね。そういうこともあって、走塁とか守備、ピッチャーの牽制とか、細かい部分での理解力は例年より高いし、秋の段階での仕上がりは早いと思う」 その横山が、秋を戦う上で掲げているのが「戦力に抗う」である。 これまで、新チームが始動して1か月程度のこの時期は、東北地区のライバルチームとの戦力差を痛感させられることが多かったが、横山は今年、そこに完全否定を決め込んだ。 「相手の戦力を認めてしまうと、結局は負けの言い訳を作っちゃうのと同じなんだよ。他のチームより力がなくても互角以上に戦えるだけの技と心を身に付けて、試合ではやってきたことを出すだけというね。そういうなかで、生徒たちと今年の秋に決めた負けられない理由が、『戦力に抗う』だった」 聖光学院の覚悟に監督が応える。 育成チームとBチームで強固な骨格が形成され、そこに血肉を与えるAチームの監督である斎藤が、横山をはじめとしたコーチ陣に頭を下げるように強く結ぶ。 「横山部長だけじゃなく、うちのスタッフ全員が頭脳をフル回転させてそれぞれのチームを作ってきてくれたからこそ、俺は聖光学院の基本を『より忠実に』って野球を細分化させられるんだ。バットが変わった今年なんかなおさらで、試合での攻防に対して綿密に野球を練り上げていけるよね」
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