仙台育英でも、青森山田でもなく…ホームラン「0」で東北制覇!? 高校野球“伏兵の7年ぶり東北大会優勝”に見る「飛ばないバット」時代の新潮流
東北大会、聖光学院の前評判は高くなかったが…?
秋の東北大会での勢力図における聖光学院は、決して前評判が高くなかった。下馬評では、140キロ超えのピッチャーを豊富に揃え守り勝つ仙台育英、夏の甲子園ベスト4メンバーが多く残る青森山田が優勝候補だった。 だからこそ横山は、斎藤は「戦力に抗う」姿勢を前面に打ち出す。貫く聖光学院の野球。それが表れたのが準々決勝の仙台育英戦だ。 「この試合、博打すっぞ」 斎藤がチームに、攻めの姿勢を注入する。 「博打」とは、ギャンブルというより「大胆に攻めていけ」の意思表示であり、戦術の理解度の高い選手たちもそれをわかっていた。 試合の局面が大きく動いたのは、0-1の5回だった。2アウト満塁の場面。フルカウントから高めの際どい変化球を見極めて押し出しのフォアボールを選んだ1年生の2番バッター・猪俣陽向が、こう確信をチラつかせる。 「監督さんから『三振OKだから、しっかり振っていけ』と言われていたことで気持ちも入り込めていましたし、2ストライクでも出塁するまで粘る練習もやってきているんで」 なおも満塁のチャンスから押し出しのデッドボールで逆転した聖光学院の、この試合におけるハイライトは8回だ。先頭バッターの猪俣が、再びフルカウントからフォアボールを選んで出塁し、3番の菊地政善のデッドボールでノーアウト一、二塁のチャンスを作る。 1球の攻防が凝縮される。 聖光学院が4番の遠藤颯斗に代わり、鈴木来夢を代打に送る。1ボールからの2球目。その鈴木がバントの構えを見せると、セカンドランナーの猪俣がスタートを切った。相手キャッチャーの川尻結大の暴投によって、猪俣が3点目のホームを踏んだ。それは、“ブルドッグ”を利用した走塁だった。 ブルドッグとは、ファーストとサードが送りバントを素早く処理し、三塁ベースにカバーリングしたショートがセカンドランナーを封殺するシフトである。この相手の守備を、合気道のように攻撃へ転化させ1点を奪い取った斎藤が、にやりと笑う。 「仙台育英さんなんかは1球の重みをすごく理解しているし、こだわりもあっから、そこのせめぎ合いを制するための仕掛けでもあったんだ。こういう走塁なんかも、今のロースコア野球から生まれた発想なんだよね」
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