空海が悟りを開いた地・室戸岬の灯台は49キロ先まで陸地の存在を知らせる“一つ目の巨人”
空と海がつながるところ
現在、日本に約3,300基ある灯台。船の安全を守るための航路標識としての役割を果たすのみならず、明治以降の日本の近代化を見守り続けてきた象徴的な存在でもありました。 【画像】室戸岬からの夕焼け。 建築技術、歴史、そして人との関わりはまさに文化遺産と言えるもの。灯台が今なお美しく残る場所には、その土地ならではの歴史と文化が息づいています。 そんな知的発見に満ちた灯台を巡る旅、今回は2021年に『星落ちて、なお』で第165回直木三十五賞を受賞した澤田瞳子さんが高知県の室戸岬灯台を訪れました。
海とともに生きる
扇の形をした高知県は、太平洋に面した海岸線の長さが七百キロを超えるという、文字通り海とともに生きる土地だ。 土佐湾沖を流れる黒潮は、マグロやカツオを始めとする豊かな海の恵みをもたらし、水深百メートル以上の深海で育つ海の宝石・血赤珊瑚は、「トサ」という名称で世界的にも知られている。 高知灯台に別れを告げ、カメラマンH氏の運転で次なる目的地・室戸岬灯台に向かう間にも、右手には広々と太平洋が広がり続けていた。相変わらず空は雲一つなく晴れ上がり、初秋とは思えぬ陽射しの中に海と空がにじんでいる。あまりに眩すぎるその光景から、車の左側に目を移す。国道沿いのところどころには、辺りの建物よりもひときわ高い鉄骨のタワーがぽつりまたぽつりと建っていた。 「津波避難タワーですね。大きいなあ」 同行の編集者T氏がぽつりと呟かれたのに、わたしもこくりとうなずいた。 海とともに生きるとはすなわち、海のもたらす災いに備えることでもある。南海トラフ地震の震源域に近い高知県では、発災時、沿岸のすべての市町村に十メートル以上の津波が押し寄せると予想されている。ことに県内西部の黒潮町では、最大三十四・四メートルという全国最高の津波想定がなされている。このため、被害想定の発表以降、県内では津波避難タワーの建造が急ピッチで進められており、すでに百二十基あまりの整備が終わっている。