収賄で注目「みなし公務員」 早稲田塾講師・坂東太郎のよくわかる時事用語
2015年4月、JR貨物の課長級幹部が東京貨物ターミナル駅(品川区)の敷地内にある物流施設の工事に絡んで電気設備会社の課長から計約43万円分のわいろを接待の形で受け取り、見返りに1億7600万円の下請け工事を発注したとしてJR会社法の収賄(わいろを受け取る)容疑で警視庁捜査2課に逮捕されました。ここで注目されたのがJR貨物の社員が「みなし公務員」である点です。 ニュースでよく見る「容疑者」とは?
刑法かそれぞれの会社法か
刑法に記された賄賂罪は職務権限のある「公務員」が請託(頼みごと)をされ、わいろを送られる(収賄罪)と成立します。贈る側(贈賄罪)はあらゆる人が適用されます。わいろの見返りで仕事を発注したらアウトですが、そこに至らなくても罪は成立します。公務員は公金(税金など)を扱い、仕事の発注は一般競争入札で最も安い者にするなど透明性が厳しく問われるため存在している罪です。なお、共犯の場合だと非公務員でも収賄罪を問われる可能性があります。 民間業者の場合は、「これで一つお願いします」とお金を渡してきた者に「かわいいやつじゃ」と発注しても構いません。ただし、場合によっては背任罪や特別背任罪に問われるケースもあります。 みなし公務員とは、その中間にある存在です。大別すると、1つは法人や組織の設置の根拠となる法律に「公務に従事する職員とみなす」との規定がある組織や団体です。例えば日本銀行は「日本銀行の役員及び職員は、法令により公務に従事する職員とみなす」(日本銀行法30条)、国立大学の役員及び職員は「刑法 その他の罰則の適用については、法令により公務に従事する職員とみなす」(国立大学法人法19条)とあります。他にも日本司法支援センター(愛称は法テラス)や主に中小企業が加盟する公的医療保険の全国健康保険協会(略称「協会けんぽ」)など。これらの場合、わいろ罪で立件する法律は刑法となります。 もう1つは「公務に従事する職員とみなす」と書かれていなくても、賄賂罪の適用を受けると根拠法にある法人などです。民間企業でも高い公共性があるとされる事業体で適用されている例が目立ちます。例えば、日本たばこ産業(JT)や日本電信電話(NTT)に規定があります。今回摘発されたJR貨物もその1つです。したがって、立件する法律は各根拠法によります。JR貨物の場合だと、刑法ではなくJR会社法16条の「職務に関して、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、三年以下の懲役に処する。これによつて不正の行為をし、又は相当の行為をしなかつたときは、五年以下の懲役に処する」に触れます。今回の幹部も刑法ではなくJR会社法の収賄容疑で逮捕されました。 つまり本来の意味での「みなし公務員」は刑法を適用する前者であって、後者にその名を冠するのは不適当ともいえます。しかし、現在のところマスコミも捜査機関も通念として用いています。