「消えたビデオ配信」...「完全に無視された」女性記者が裁判で目の当たりにしたロシア政府の《深すぎる闇》
外部から隔離された裁判
彼ら2人はわたしをモスクワ市裁判所へ連れて行くと言った。わたしの逮捕は違法だとする弁護士の申し立てを審理する裁判所だった。裁判所への道すがら、わたしはジョージ・オーウェルの『一984年』を再読していた。だから道筋を追っていなかった。 「ここはモスクワ市裁判所?」わたしは驚いて目を上げた。 「いいえ、シチェルバ裁判所です」女性地区署長が言った。 冷水を浴びせられたようだった。フェイクに関する条文のあらゆる審理は非公開でおこなわれるうえに、記者たちから隔離するために、モスクワの中心部ではなく郊外にわたしを連れてきたのだ。 裁判所に入った。不気味なZの文字の入った防弾チョッキをつけた国家親衛隊の兵士たちがわたしのバッグを入念にチェックした。警備体制が強化されていた。プーチンが部分的動員令を布告したばかりで、当局は大規模な暴動を懸念しているのだ。 モスクワ市裁判所の裁判官はリモートでの審理を始めた。わたしはガランとしたホールに一人だけで、手には「動員反対!」と書いた白い紙を持っていた。検察官の言葉が聞こえてきた。またしても検察官は、ウクライナの子供の死は、ロシア国防省が発表していないのだからフェイクだと主張した。わたしが無罪だとする弁護士の理由は完全に無視されていた。
遺された時間は少ない
裁判官は自宅軟禁の保全処分の継続を決定した。記者たちは裁判のビデオ配信を要求したが、なぜかビデオは消えてしまった。 裁判の後、ザフヴァトフ弁護士がわたしの家に来た。 「もし刑務所で朽ち果てたくなかったら、助かる最後のチャンスがあります」ザフヴァトフが言った。「あなたは貴重な時間を浪費しています」 ザフヴァトフが何を言おうとしているのかはよくわかっていた。ロシアから逃げるしかないのだ。また神経性の咳の発作が始まった。 わたしが次にバスマン裁判所に出頭する一0月一0日までに、残された時間はだんだん少なくなっていった。わたしは大至急、自分の命を救わなければならなかった。でも娘を置いていくことはできなかった。しかもアリーナには外国旅行用パスポートがなかった。万事休すだった……。 『「北朝鮮へ逃げようかしら」...反戦派ジャーナリストがロシアから逃亡する「極秘計画」の驚くべき詳細』へ続く
マリーナ・オフシャンニコワ
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