5時間の一大エンターテインメント! 田中俊介・須賀健太・坂口涼太郎が誘う“江戸のテーマパーク” 木ノ下歌舞伎『三人吉三廓初買』
身体ごとごっそりもっていかれる、“江戸のテーマパーク”
──須賀さんは元武家の盗人、お坊吉三を演じられます。どのような人物と捉えていますか。 須賀 稽古が始まる前、(演出の)邦生さんといろいろ相談していく中で、どちらかというと元々家柄がいい、お坊ちゃんタイプだと言われたんです。最初は結構強そうなダークヒーローと考えていたので、180度くらい変わって、少年性のようなものを一番に置くようになりました。このおふたりとの三人吉三、バランスはすごくいいなと思います。あとはその少年性のレベルの調整。どんどんしっくりしてきた感があります。それから台詞──古語から現代語になって、そこからまた歌舞伎の見得が出てきて、というのは木ノ下歌舞伎ならではですが、3人の中では僕のお坊が最も“現代化”の度合いが大きい。とっつきやすい役柄ではあるかなと思います。 ──坂口さんが演じられるお嬢吉三は、「月も朧に白魚の──」という名台詞が有名です。この場面、どのような演出になるのでしょう。 坂口 それは──、ご期待ください(笑)! あの場面の美しさは私もしっかり表現しようとしています。お嬢吉三については、「あの池袋の劇場を出たら、そこにいるんだよ」という感じでやりたいんですね。この物語は江戸のストリートの話だと思いますが、ストリートにいる、盗みを働かないと生きていけない人たちはいまも世界中にたくさんいます。劇場を出たそのすぐ近くにいる、十代でサバイブしている人。そういう人を演じたい。 女装した少年で盗人で、というのはカッコいいし面白いけれど、お嬢吉三は恥じらい、後ろめたさを感じている。生き別れた親父さまが、倅のいまの姿を知ったら悲しむだろうと──何かそこに真実味のようなものを感じていただけたら。でも振袖姿で盗みを働くなんて、賢いですよね(笑)。その声色、身体、振る舞いがコロコロ変わっていくのも面白い。現代劇での女形を、しっかり模索していきたいです。 ──黙阿弥といえば七五調の美しい台詞が魅力ですが、木ノ下歌舞伎版の台詞についてはいかがですか。 田中 普通に喋っていたのが、急に古語の喋り方になり、と思ったらまた現代語に戻って──そのリズムは、これまで感じたことのない心地良さですね。キノカブ初体験の方はかなり驚かれると思いますが、それを面白がっていただけたら! 体験したことのない感覚ですから、多分、5時間があっという間に過ぎていくと思います。 坂口 黙阿弥のあの七五調のリズムが、現代語の気持ちのいいリズムに移されたという感覚です。歌舞伎でわかりにくいところがあったという人も、木ノ下歌舞伎を観たら、「あんなことを言っていたんだ」とわかってくると思います。 ──上演時間は5時間。木ノ下さんは「体感で1時間半くらいのつもりで作ります」とおっしゃっていましたが……。 坂口 2015年に木ノ下歌舞伎の『三人吉三』を観ているのですが、あっという間なんです! “江戸のテーマパーク”に1日いて、身体ごともっていかれたような感覚。5時間、ごっそりもっていかれて、劇場を出て現代の風景を目にすると、「あれ? タイムスリップしたかも?」といった感じになるのがとても面白い。 須賀 稽古を重ねていく中で、群像劇としての部分がどんどん立ってきたのですが、主軸となる3人のほかにもいろんな人の物語が動いていて、百両と失われた名刀・庚申丸の行方もからんでくる。そんな5時間──いまの僕はヒヤヒヤなのですが(笑)、「あっという間」を目指したいです。