〈40代・50代 中年の危機〉ミッドライフクライシスと男性更年期のメンタルを守る2つの対策
40代、50代になって、自分のキャリアや健康、生き方に思い悩むことが増えた…こうした「ミッドライフクライシス」を経験する人は、約8割にのぼるとされています。このミッドライフクライシスとは何か、なぜ起こるのか。今回は特に男性に焦点をあてて、その理由や対策方法についてお伝えします。 【写真で見る】ミッドライフクライシス(中年の危機)と男性更年期のメンタルを守る2つの対策 ■男性のミッドライフクライシスは男性更年期も大きく関わる 先日、このような質問をいただきました。 「いい歳して仕事でミスをして、周りに迷惑をかけてしまいました。長年会社と家の往復の毎日で、自分の人生は何なのかと考えます。“ミッドライフクライシス”という言葉を聞いたことがありますが、心が晴れるにはどうしたらいいでしょうか。」(40代・男性) 40代、50代で、キャリアや健康、生き方に悩む、いわゆる「ミッドライフクライシス」を経験する人は多くいます。約8割もの人が経験するとも言われます。ミッドライフクライシスとは、30代後半から50代にかけて、自分の人生やアイデンティティに疑問や不安を抱く状態で、メンタルに大きな影響を及ぼすことがあります。また、男性の場合は、同様の時期に起こりやすい男性ホルモン(テストステロン)の減少によって引き起こされる心身の変化、いわゆる男性更年期症状にも注意が必要です。男性更年期には、体力や筋力の低下、判断力や性欲の低下、集中力の低下、イライラやうつなど、心身の変化をもたらします。これらの症状は、ストレスと相互に影響しあい、働き盛りの年代にうつ病を発症するリスクを高めます。 イライラしたり、不安になったり、いつも気にならないことが気になるなど、心身に変化が起こったら、それは自分を見直すタイミングが来ているということでもあります。そこで今回は、ミッドライフクライシスと男性更年期を乗り越えるための2つの対策を紹介します。 ■対策その1:健康的なライフスタイルを心がける 男性更年期症状は、40代から50代にかけて、男性ホルモンのテストステロンが減少することで起こります。テストステロンは、男性らしさや活力を支える重要なホルモンですが、加齢とともに分泌量が減っていきます。ライフスタイルを健康的なものにすることは、テストステロンレベルを上げ、心身を安定させて、健康的で充実した日々を送ることにつながります。今回は、男性更年期対策にぜひ取り入れたい4つのポイントを紹介します。 ■■1.血糖値の急上昇・肥満を解消する 肥満は、テストステロンを減らす「アロマターゼ」という酵素を増やすとされます。肥満を防ぐには、血糖値を急上昇させるような食事をとらないことが大切です。例えば、菓子パンや甘い缶コーヒーなど、砂糖の多く含まれる食品や飲料は控えるようにしましょう。こうした砂糖が多く含まれるものをとると、血糖値が急上昇します。血糖値急上昇は、肥満の原因になります。砂糖が多く含まれる食品や飲料は控え、栄養バランスの良い食事を心がけましょう。野菜や果物、豆類などの食物繊維が豊富な食品をとることで、血糖値の上昇を緩やかにすることができます。 ■■2. 適度な運動をする 適度な運動は、テストステロンレベルを上げる効果があります。特に筋力トレーニングで筋肉量を増やすことはホルモンバランスを整えるとされています。ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動もおすすめです。運動は心肺機能や血流を改善し、ストレス解消にもなります。運動する時間が取れない場合は、たまに伸びをしたり、ゆっくり深呼吸をすることから始めてもかまいません。大きく息を吸って吐くことは、内側から体をマッサージして体内の血流を改善し、気持ちをすっきりさせることにもつながります。 ■■ 3. 十分な睡眠をとる 睡眠は、心身の回復に欠かせません。2011年に行われた研究*によると、ほとんどのテストステロンの分泌は、睡眠中に起こるという結果が出ました。人によって十分な睡眠時間は異なりますが、その研究では睡眠が8時間未満だと、翌日の男性ホルモンのレベルが15%も低下する可能性があるとされています。 睡眠不足は、テストステロンレベルを低下させるだけでなく、免疫力や集中力も低下させます。睡眠の質と量を高めるためには、就寝前にはカフェインやアルコールを控える、寝室を暗くして快適にする、スマホやパソコンなどの画面から目を離すなどの工夫をしてみましょう。 *出典:Effect of 1 Week of Sleep Restriction on Testosterone Levels in Young Healthy Men ■■ 4. ストレスを軽減する ストレスは、コルチゾールというホルモンの分泌を促します。コルチゾールは、短期的なストレスに対処するために必要なホルモンです。しかし、慢性的なストレスにさらされると、テストステロンレベルを低下させることがわかっています。コルチゾールは、心血管系の病気のリスクも高めるとされています。ストレスは避けられないものですが、上手に付き合う方法を見つけることが大切です。例えば、深呼吸や瞑想でリラックスする、読書や趣味で気分転換する、美味しいコーヒーや映画で楽しむなど、数分でもよいので、自分を優先する時間を作ってみましょう。 ■職場以外の居場所を持ち、多様な価値観に触れる ミッドライフクライシスへの対策の二つ目は、自分の居場所を複数持つことです。例えば、自分が職場での役割、思い入れが大きいと、仕事での成功体験、失敗体験が自分の価値であると考えてしまうかもしれません。特に冒頭に紹介した方のように失敗した体験から自分を全否定してしまう人もいるでしょう。しかし、一つの経験や出来事から自分自身を評価したり、定義したりするのはとてももったいないことです。広い視野で自分を見ることができれば、「失敗は学びの機会」だと捉えて次のステップに進むことができ、健全な心の状態で過ごしやすくなるのではないかと、私は考えます。 そこで提案したいのは、自分の居場所を複数持つことです。職場以外にも、家庭はもちろん、友人関係、趣味のサークルなど、いくつかのコミュニティを持っておくことは、ミッドライフクライシス克服にとても役立ちます。複数の居場所を持つことは、多様な視点を持つことにつながります。すると、一つの場所での失敗や成功、人間関係に翻弄されたり、ストレスやプレッシャーを強く感じることも少なくなるでしょう。また、どこか一つの場所で何かあったとしても、ほかにも居場所があれば、心の安定を保ちやすくなり、さらに中年期からの人生の豊かさにもつながっていくはずです。 ■症状が改善しないときは抱え込まずに受診を ミッドライフクライシス、男性更年期で体調や気分が優れないことは、決して恥ずかしいことではありません。日常生活で気をつけるべきポイントを押さえて、テストステロンレベルを上げる工夫をしてみてください。もし、ライフスタイルの改善や自己管理では症状が改善しない場合は、一人で悩んだり、抱え込んだりするのではなく、専門家に相談することも大切です。泌尿器科やメンズヘルス外来では男性更年期に関する診断や治療が受けられます。心の健康に関しては精神科や心療内科で相談できます。男性更年期は一度きりの人生をより豊かに生きたいという素晴らしい思いの裏返しです。自分自身を大切にして、健康的で充実した人生を送りましょう。 ライター/永田京子 NPO法人 ちぇぶら代表理事、更年期トータルケアインストラクター 1,000名を超える女性たちの調査や医師の協力を経て “更年期対策メソッド”を研究・開発・普及。口コミで広まり、企業や医療機関など国内や海外で講演を行い述べ3万人以上が受講。2018年カナダで開催の国際更年期学会で発表。
永田京子