中東欧が「プーチン支持」に傾くのはなぜか?...世界秩序を揺るがす空想の「ソ連圏への郷愁」と「国民の不安」
プーチンに擦り寄る国
23年に首相の座に返り咲いたスロバキアのロベルト・フィツォも、親ロシア・反ウクライナの立場を取る。 フィツォは左派のポピュリストで、今年1月のキーウ訪問以来ウクライナへの強硬姿勢を和らげた。だが4月の大統領選ではロシア寄りのペテル・ペレグリニが当選し、国民に親ロ感情が広がっていることを浮き彫りにした。 EUやNATOの外にもプーチンに擦り寄る指導者はいる。03年からアゼルバイジャンに君臨するイルハム・アリエフ大統領は今年4月にモスクワを訪問し、8月には首都バクーにプーチンを迎えた。 22年2月のウクライナ侵攻以来、アゼルバイジャンはロシアにとって重要な役割を果たし、西側の制裁を迂回する形で貿易回廊へのアクセスを提供してきた。アゼルバイジャンを経由しロシアとイランをつなぐ国際南北輸送回廊(INSTC)もその1つだ。 8月のプーチン訪問の翌日には、BRICSへの加盟を申請した。また7月には中国が主導しロシアも加盟する国家連合、上海協力機構(SCO)にオブザーバー国としての参加を申請し、正式加盟に一歩近づいた。 そしてジョージア。かつて民主主義再生の象徴とされたこの国も、徐々にロシア寄りの独裁国家へと後戻りしている。08年にロシアと戦火を交えたにもかかわらず、与党「ジョージアの夢」の下で10年以上ロシアとの関係を修復してきた。 表向き、EU加盟は今もジョージアの悲願だ。23年12月には欧州理事会が、ジョージアに加盟候補国の地位を付与した。だが政府が国民とEUの抗議を無視して「外国エージェント法」の成立を強行した今年5月以来、EUとの関係は著しく冷え込んでいる。 「外国エージェント法」はロシアの法律を手本に、外国から20%以上の資金援助を受けるメディアやNGOに登録を義務付ける。EU寄りの団体の活動を抑圧する道具として、政府は重宝するだろう。
「空想のソ連圏」への郷愁
残酷な侵略戦争が2年半以上も続く状況で、侵略者のロシアがいま再び共感を呼ぶのはウクライナにも同盟国にとっても由々しき事態だ。 ドイツ東部、スロバキア、ハンガリー、アゼルバイジャン、ジョージアにおける権威主義の高まりはウクライナ侵攻が発端ではないが、ウクライナ侵攻の結果としてエスカレートしたのは間違いない。 これを推し進める指導者は国民感情に付け込み、世論を慎重に誘導する。そうした感情の1つは、ロシアとの戦争に引きずり込まれるのではないかという根強い不安だ。コロナ禍の影響やウクライナ侵攻が引き金となった物価高への対応をしくじった政府への恨みもある。 またソ連時代の保守的で強い指導者たちが強要した「秩序」とその後のリベラルな「混乱」を比べ、空想のソ連圏に郷愁を覚える人もいる。 一方、昨年チェコではNATO出身のペトル・パベルが大統領に就任し、ポーランド総選挙では反EU政権が敗北。旧ソ連圏で起きている民主主義の退行に歯止めをかけ、逆転させられる可能性を示した。 同様に、ロシア主導の軍事同盟である集団安全保障条約機構から今年6月にアルメニアが脱退を明言したことは、地政学的同盟関係が不動でないことを教えてくれる。 こうした変化は全て世界において安全保障の秩序が揺らいでいることを示唆する。ウクライナでの戦争がいつどのような形で終わるかが、新秩序の在り方を決めるだろう。 しかしながら左右両方のポピュリスト政党が同時に台頭し、独裁政権がロシアとイデオロギーで連帯する現状は強い警告を発している。この戦争に勝者がいるかどうかは分からない。だが誰が勝利するにせよ、自由主義的な秩序の再構築は決して保証されていないのだ。 The Conversation Stefan Wolff, Professor of International Security, University of Birmingham This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.