アングル:日本株に新たな懸念材料、円安で12月利上げ観測 年末ラリー不透明
Noriyuki Hirata [東京 14日 ロイター] - トランプラリーで高値圏を維持する米株と対照的に、日本株市場は調整ムードが強まっている。企業業績の伸び悩みや米国の関税引き上げなどが警戒されているが、ここにきて新たな懸念材料が出てきた。円安進行による年内の日銀の利上げ観測の強まりだ。年末高を先取りする動きは限られている。 「日銀が利上げありきの姿勢だとすれば、株価の足を引っ張りかねない」と、マネックス証券の広木隆チーフ・ストラテジストは指摘する。道半ばのデフレ脱却の流れが腰折れしかねないことや、為替が一転して円高に振れることが警戒されている。 景気動向は力強いとはいえない。9月の毎月勤労統計(速報)では、実質賃金は前年比0.1%減と2カ月連続でマイナスとなった。日銀などが重視しているとされる共通事業所ベースの所定内給与も前年比2.7%増となり8月と比べて0.1ポイント低下。9月の家計調査では2人以上の世帯の実質消費支出は前年比1.1%減で、2カ月連続のマイナスだった。需要が弱い中にあって、緩和的環境は引き続き必要との見方は根強い。 一方、基調的なインフレは日銀の利上げを正当化するとみられている。9月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く、コアCPI)は前の月の2.8%を下回る2.4%上昇。10月の東京都区部CPI(同)は前年同月比1.8%上昇と日銀の目標2%に届かず、今年4月以来の低さとなった。 しかし市場では、「円安が進んでいることを踏まえると、日銀の物価見通しが上振れしやすくなっている」(ニッセイ基礎研究所の井出真吾チーフ株式ストラテジスト)と受け止めている。 債券市場では、日銀の12月会合での利上げ織り込みが進んでいる。東短リサーチ/東短ICAPによるオーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)に基く試算では、14日時点で政策変更の織り込み比率は53%に高まった。 前回10月会合の前日は3割弱だったが、会合当日に4割弱に高まり、その後も上昇基調となっている。同会合では植田和男総裁が、利上げ判断に「時間的な余裕はある」としていた表現を封印し、早期の追加利上げに含みを持たせた。 東短リサーチの高井雄一郎研究員は「ドル/円が(為替)介入レベルに近付いてくると、(日銀の金融政策が)現状維持では円安がさらに進みかねず、利上げへの思惑につながりやすいだろう」と指摘している。 <年末高の思惑に「水」も> 足元の為替は円安基調を継続しているが、日経平均は追随できていない。「早期利上げの観測の高まりは、上値抑制要因のひとつ」と、しんきんアセットマネジメント投信の藤原直樹シニアファンド・マネージャーはみている。ドルは156円に上昇してきたが、これ以上の水準への急ピッチな円安進行は素直に好感しにくいという。 日経平均は前回の日銀会合以降、1.9%下落し、3万8000円─3万9000円台でのもみ合いが継続している。一方、金利動向に敏感な銀行株指数は10%上昇した。トランプトレードも含まれているものの、早期の追加利上げの織り込みが、株式市場でも債券市場と同様に進んできている様子がうかがわれる。 仮に日銀が0.25%追加利上げするとしても「金利水準自体はまだまだ低い。実際には経済全体への悪影響は限定的ではないか」とニッセイ基礎研の井出氏は指摘する。一方、日本ではゼロ金利の期間が長期にわたっただけに、投資家サイドの心理的な準備が十分かはわからないとマネックスの広木氏は話し「納得感を伴わない利上げとなれば、嫌気されてもおかしくない」という。 年末の株高を見越したクリスマスラリーを期待する声は根強いが、12月会合で追加利上げがあった場合、こうした株高期待に水を差されるおそれがある。焦点になるのはエビデンス(証拠)と日銀による説明とみられている。 日本企業による値上げは4月と10月に集中しやすい。こうした動きを反映してCPIがよりしっかりしてくるか、来年の春闘に向けて実質賃金がプラスに定着するとの共通認識が市場で広がるかなどがポイントになりそうだ。日銀サイドからは、連続利上げではないとの発信も、市場へのネガティブインパクトを抑える上では重要になる。 「事前に市場に織り込ませておけば、出尽くしになる可能性がある。金利は0.5%まで引き上げれば、それ以降のハードルは高い。一服感が出れば株価にプラスになる」としんきんAMの藤原氏は話している。 (平田紀之 編集:橋本浩)