美大の学費を稼ぐために風俗を転々と…父からの「DVサバイバー」20代女性が見出した「生きるための拠り所」
現在は演劇の道に携わる杉原美優さん(24歳、仮名)は、幼少期に父のDVに遭い、大きなトラウマを抱えた。その後、母との平穏な二人暮らしが始まるかと思った矢先、母と死別。里親家庭に引き取られるも、過去のDVから「幸せな家庭」を素直に受け入れることができず、惨めな思いにさいなまれ続ける。里親のもとを離れ、東京の美大へ進学を決めたが、次に杉原さんを苦しめたのは、学費や周囲とのギャップの問題だった。 【写真】学費を稼ぐため、杉原さんが風俗店に勤めていた頃の姿 前編記事:『名前も知らない「アダルトチルドレン父」からのDVを受け続けた20代女性の「壮絶な半生」』 中編記事:『父の壮絶DVで家庭崩壊、孤独のどん底にいた女性が「里親家庭」で覚えた「強烈な違和感」』
オーバードーズに走った
美大に入学を決められたのは良かったものの、過去のトラウマがフラッシュバックし、精神疾患は酷くなり、今の生活や将来に対して不安が膨らんでいく。しかも学費が年間150万円ほどかかる美大では、周りは裕福な生まれの同級生ばかりで、イッセイミヤケやヨウジヤマモトなどのブランド品に身を包む人も多かった。そんな恵まれた家庭に育った周りと自分を比べ、押しつぶされそうになった。 「資本がある家庭で、不自由なく芸術に触れてきた同級生とは、文化水準が異なり、会話についていくことができませんでした。お金に不自由のない大半の同級生は、たくさんアルバイトをしなくても欲しいものが買え、制作のための時間を確保できていました。 わざわざ美大に進んだけれど、やっぱり芸術を志すにはある程度のお金が必要だと強く思った。芸術に触れたり、制作をしたりする時間も、アルバイト続きだと限られてしまいますから」 一人の夜、やりきれない気持ちを抱えた杉原さんは、処方薬のオーバードーズに走るようになった。睡眠薬のマイスリーやサイレースなど、複数の薬を飲み散らかし、意識を飛ばしてやり過ごしていた。 じきに大学やバイトも休む日が増えていった。処方薬に依存し、精神状態も芳しくなかったことを鑑みれば、自明なことだ。午前中に起きたつもりが夜だったり、鬱で体が重く動かなかったり、薬が抜けなかったりと、生活はぐちゃぐちゃになっていった。 ある時は、休みがちなのを心配した同級生が家を訪れ、オーバードーズで意識を失っていた杉原さんを発見し、救急車で運ばれたこともあった。病院の検査では、処方薬の乱用で、腎臓に大きな負荷がかかっていると指摘された。 こうした破滅的な暮らしで、頭を悩ませたのが金銭面だ。月々の生活費に病院代、画材なども高額だった。月20万円ほどを工面したいと思った杉原さんは、近所のドラッグストアで連勤しようと一念発起するも、心身ボロボロの状態では思うようにいかなかった。 「もともと高校生の時はうつ病と診断されていたのですが、大学生になってから改めて受診すると、双極性障害II型であると判明しました。双極性障害II型は、沈んでいる時とハイになっている時の落差が激しく、躁状態の時はなんでもできるように感じるんですけど、それが鬱に切り替わると反動で塞ぎ込んでしまう。 その波に振り回されてばかりだから、あらかじめシフトを入れたところで、当日にちゃんと行けるかわかんないんです。それに加えてADHDなので、シフトの時間を平気で忘れたり、大学がある時間にシフト入れたりして、もう全然ダメだった」