<27年目の告白>天皇賞を制したオフサイドトラップの裏で…柴田善臣が明かすサイレンンススズカのこと「スズカがレースを中止しようする姿が…」
深追いせず、自分の走りに徹しようと考えていた
とはいえレース当日のオッズではオフサイドトラップは6番人気。サイレンススズカやメジロブライト、シルクジャスティスらGIホースの前では、あくまで伏兵の1頭だった。なかでも単勝120円の圧倒的支持を集めていたのがサイレンススズカ。6連勝という実績はもとより、スタートから大逃げを打って後続を寄せつけない無敵のレースぶりが、競馬ファンを熱狂させていた。 もちろん柴田も相手はサイレンススズカ1頭だと思っていた。 「すごい馬だったからね。普通の馬なら止まるようなハイペースで逃げて、そのまま後続を離して勝っちゃうんだもん。ユタカ(武豊)もそういう乗り方をしていたし、相手の身になってみれば“イヤな馬”だよね。そこで自分が考えていたのは、最初から負かしてやろうとは思わない競馬。それまで、サイレンススズカを深追いして、着順を落としてしまった馬をたくさん見ていたから。だからまずは自分の走りに徹すること。オフサイドには溜めて切れるようなイメージもなかったから、スタートをうまく出てくれたら先行策。そのうえで自分のペースを乱さず運んで、ベストのタイムで走りきれれば……と。あとは何が起こるか分からないのが競馬だし、スズカも生き物だから調子の良し悪しがあるかもしれない。そんな気持ちだったね」 レースではいつも通り大逃げを打つサイレンススズカに、離れた2番手から運ぶサイレントハンター。オフサイドトラップはそこからさらに離れた3番手を追走した。 「理想的な位置取りだったし、リズムも良かった。ただコーナーに入ると前のサイレントハンターは見えるけど、その前のスズカはもう見えなかったです」 そして3-4コーナーの中間。大ケヤキを過ぎたあたりで悲劇が起こる。 「サイレントハンターの(吉田)豊が変な動きをしたのが見えたんです。急に外に行ったのを見て“故障かな? ”と思った。それと同時に考えたのは自分の進路取り。ジョッキーというのは騎乗馬が故障した時にはなるべく真っすぐ馬を下げるのが暗黙の了解だから、しっかり前を見ていれば内か外、どちらかには避けられる。 結局、内にスペースがあることが確認できたから、そのまま走らせた。横目でスズカがレースを中止しようとする姿も見えた。その瞬間は“えーっ!? ”と思ったけど、本当に一瞬だけ。レースは流れていたから」
(「NumberPREMIER Ex」藤井真俊(東京スポーツ) = 文)
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