恩田陸最新作「作品史上もっとも美しくヤバい天才」が爆誕 萌え保証!一人の天才少年をめぐる「春」の物語
今作『spring』執筆に当たっても、かなりの量のバレエ公演や映像を見た。「2014年に、編集者さんと次はバレエを書きましょうという話になって、クラシックバレエの全幕ものを観始めました。それまでミュージカルやコンテンポラリーバレエは好きでよく観ていましたが、まだ書けないと言っているうちに、結果的に6年たっぷり観て」。 ■「書く」と「考える」を同時進行 「ある程度観て、蓄積しないと書けないんですよね。インプットしないと書けない部分もあるし、寝かせる必要もある。舞台を観ると、その場その場の印象は反芻するんです。かといって、反芻して満足しちゃいました、では書けなくなるし。執筆に取り掛かったのも、書くべき作品が“見えた”というよりは、さすがにそろそろ書かねばやばいなと、見切り発車です。書きながら考えていくというのを同時に並行してやっていました」
その膨大なインプット量によるものなのだろう、作品中には、恩田の想像によるコンテンポラリーバレエ作品がいくつも出てくる。「この曲だったらこういう踊りかな、という妄想です(笑)。これまで聞いてきた音楽から、これだったら踊れそうだな、なんて、作品の演出を考えるのは楽しかったですね」。 いかに好きだからとはいえ、畑違いのダンス作品を妄想できるまでに観て学習する恩田の知的好奇心と、得た知識を原料に架空のダンサーによる架空の舞台を生成する妄想力と。恩田陸という作家がこの時代の優れた人気エンタメ作家の座にあるわけだ……と舌を巻く。
今作『spring』は、萬春という天才ダンサーの成長と活躍を、各章、4人のキャラクターがそれぞれの視点で立体的に語っていくという、4章立ての巧みさも印象的だ。 「筑摩書房のPR誌『ちくま』2020年3月号からの長期連載ですが、4人の語りで1章10回、全40回で終わるっていうのを最初に決めていたので、予定通りでした。『蜜蜂と遠雷』もそうでしたが、私の連載は『いつ終わるんだろう』と作者もわからないなんてのもあるんです。最後の章は、実は春本人を語り手にするとは決めていなくて、3人称にしようかと思っていたんですよね。ところが意外なことが起きて」