恩田陸最新作「作品史上もっとも美しくヤバい天才」が爆誕 萌え保証!一人の天才少年をめぐる「春」の物語
■キャラクター本人がしゃべり出した 漫画家や小説家や脚本家、フィクション作家に話を聞くといつも驚かされる、「キャラクターが勝手にしゃべり出す」という不思議な現象が、恩田の今作にも起きたのだという。 「やっぱり、春本人に語ってもらわなければダメだと。1章から3章まで他人の視点で書いているときは、出来事は語られても、春がどういう性格か、どういう人なのかわからなかったんです、作者にも。でも本人に語らせてみたら意外な性格が出てきて、これまでの“答え合わせ”のようなことが起きた。逆に、本人にしゃべらせてみないとわからないことってあるんですよね」
登場人物たちが、たまたま同時代の同じ場所に、春という天才と“居合わせる”という表現も印象的だった。「才能ってなんだろう、というのも私のテーマなんですけれど。バレエや音楽やスポーツなどの世界を観ていて、才能ある人が揃って出てくるとき、面白いなと思うんですね。日本ではないけれど、パリのオペラ座バレエ団はそれぞれの世代に固まって出てきて、一緒に切磋琢磨している。将棋の羽生世代じゃないですが、一人だけじゃなく、ライバルと巡り合わせるのはすごく大きいことだと感じるんです」
才能、といえば、恩田のような作家の才能もいったいどうなっているのだろう、というのが筆者のような凡人の感想だ。発想もすごいが、書き続ける量もすごい。 「私は同時に4、5本の連載を同時進行して、それを少し書いたら次はこっち、と細切れに書いてるほうが自分には合ってると思います。むしろ1本を最初から最後まで続けて書くほうがつらい。ですから、途中でこっちの連載の話は何だったっけ、この登場人物も誰だっけ、みたいにすぐ忘れるんで、毎回読み返さないと。でも読めば、止めたはずのあの話がもう一度頭の中で始まるんですね」
子どもの頃、夏休みの宿題は最後の数日間に泣きながらするタイプだったという。「大人は、泣くくらいならもっと前からちゃんとやっておけばよかったのに、なんて言うんですけれど、それができたら苦労はしない。今も締め切りがあるから必死こいて書くんです(笑)。私はもうほとんどずっと考えて考えて、でも今日もできなかった……っていう感じで、やっぱり考えてる時間がすごく長いのを、締め切りが近くなって一気に書く感じです」。