男性看護師はまだまだ少ない。ジェンダー平等の視点が、その活躍の場を広げる
性別を超えた「適材適所」が、ケアの質を向上させる
――看護師として働く男性の数が増えることで、医療現場にどのようなプラスの効果が表れるとお考えですか? 坪田:男性患者やそのご家族とのコミュニケーションにおいて、男性看護師が関わることでスムーズに進むケースがある、というのは1つの事実です。 例えば、年配の男性患者に対して女性看護師が指導をしても聞き入れてもらえないのに、男性看護師が伝えると素直に受け入れる、といったことですね。これは単に「男性同士の共感」という面もあるのと同時に、社会に根付く「男のほうが偉い」という女性蔑視の表れでもあるのかと思います。 こういう状況をただ受け入れるというよりは、むしろそのような男性とコミュニケーションが取りやすい私たち男性看護師がジェンダー差別に敏感になり、女性看護師の指導を聞き入れるよう促したり、ペイシェント・ハラスメント(患者やその家族による医療従事者への暴言や暴力、迷惑行為)が起こらないようサポートしたりする役割ができる、と考えます。 秋吉:残念ですが、そういう男性患者は一定数いるんですよね。そこで思い出すのは、ある訪問看護の依頼で高齢の兄弟のもとを訪れたときのことです。室内の衛生状態も悪く、当人たちには暴言の傾向があるため、他の女性看護師や女性ヘルパーさんたちは対応に困り、怯えていました。 しかし私が担当となり、ときには厳しく注意することで彼らの態度が変わり始めたのです。これは同性だからこそ厳しく、かつ対等な関係で接することができた結果である、とも考えられますし、男性看護師の存在が暴力の抑制に一定の役割を果たした、とも言えます。 これは単に体格的に勝るか・勝らないかという問題だけでなく、「男性がいる」という事実自体が抑止力になる面があるのだろうと思います。 ――男性看護師の存在が助けになる一方で、「男なんだから、暴れる患者の対応をして」というジェンダーロール(性別に基づき期待される特定の行動や役割)の固定化が生まれてもいけませんね。 秋吉:おっしゃるとおりです。「男だから暴力に対応しろ」と言われると苦痛に感じる男性もいますし、暴れる患者に対応できる女性もいます。ただ、男性看護師の介入で暴言や暴力などの抑止力になる場面は実際にありますので、私個人としてはそういうとき意識的に男性看護師が間に入ったほうがいい、と考えます。 逆の観点で言えば、男性看護師によるおむつの取替えを拒否する高齢の女性患者もいらっしゃいます。そういう恥じらいの気持ちがある方に男性看護師が「ジェンダー平等だから私がやります」と対応するのが果たして正解なのだろうか、という点は検討の余地があると思います。 やはり個人のご希望や状況なども鑑みながら、どうすれば患者さんやご家族、そして医療従者にとってベストかを一つ一つ判断していくのが良いのではないでしょうか。 坪田:秋吉さんの例は、男性看護師の重要性を端的に示していますね。やはり社会には同性同士のコミュニケーションが有効に機能する場面があるのだろうと感じます。 例えば、男性でも女性でも「同性に看護してほしい」と思うケースがあるのではと思いますし、男性優位の考え方を持つ男性患者さんの場合など、女性に弱みを見せられず、女性看護師にヘルプが言えないという場面も見受けられます。そこに男性看護師がいれば、より率直な対話や助言ができる可能性が生まれます。例えば、家事を全くしたことのない夫が妻の介助に尻込みをするような場合、自分と同じ「男性」の看護師が「一緒にやりましょう」と声かけする方が一歩を踏み出しやすくなる、といった効果ですね。 つまり、男女両方の看護師がいたほうがさまざまな患者さんのニーズに対して満足のいく対応ができるようになるのだと思うんです。