<ラグビー>帝京大が社会人のNECを倒した大金星は、なぜ起きたか?
試合開始早々、スクラムハーフの流大主将は「行ける、と思いました」。ボール保持者とタックラーの1対1、ブレイクダウン(ボール争奪局面)…。古今東西、ラグビーの勝敗を分けてきた局面で、確かな手応えを掴んだのだ。これがそのまま、勝因の1つとなってゆく。 実はトヨタ自動車戦のセットプレーでの「様子を伺うところ」を、岩出監督はクラブの本質的な短所と捉えていた。だからこそこの日を前に、こう、発破をかけていたのだ。 「ファーストプレーから挑んで、自分たちが行けるという感覚を自分たちから掴みに行こう」 序盤のセットプレーでは失敗や反則を繰り返したが、来季主将のフッカー坂手淳史は苦笑しつつも前向きだった。「ミスした後の自分の行動をどうするか、と、走りました」。試合全体を通しては、「スクラムに関しては、負けている感じはなかった」とのことだ。実際、互角だったか。 前半10分、敵陣ゴール前右での相手ボールラインアウトが乱れると、帝京大はそのチャンスを活かす。じっくり球を回し、最後はスタンドオフの松田力也が「空いているところはここ」と守備網の凹凸を突いた。チーム初得点をトライで挙げ、ゴール成功もありスコアを7-7の同点にした。 複数の談話を要約すれば、帝京大のゲームプランは「相手を敵陣から逃がさない試合運び」と「リザーブ選手も活用し、終盤からテンポアップ」だった。セットプレーと肉弾戦である程度の手応えを掴んだ若者たちは、それを首尾よく遂行できた。 スクラムハーフの流大主将は前半、接点の脇から何度もキックを蹴っていた。相手守備網の背後を突き、陣地を獲得し続けた。 「相手のポジショニングを観ることができた。(守備時のNECのウイングが)前に上がると分析していましたし、そこを上手く突くことができた。常に敵陣でいることは意識していました」 17-17でハーフタイムを迎えた。敵陣の深い位置で球を得た側が、順に点を取っていた。後半も引き続き「エリア」を意識した流主将だが、持ち前の瞬発力を活かすようにもなった。例えば17分頃だ。ハーフ線付近右のブレイクダウンでNECが反則するや、転がる球を持ち出す。速攻を仕掛けた。 「相手の出足、動きを見て、ちょっと変化を加えた。相手が下がっていなかったので、ノット10メーター(反則を犯した側がその地点から10メートル以上下がっていない、という反則)を取れるとも思った。リズムとして、行った方がいいのかな、と」 そのまま帝京大は「相手を敵陣から逃がさない」を実現。20分には22メートル線付近右中間で接点を重ねた。結果、相手の反則を誘った。 「レフェリーはロボットじゃない。笛に対応しないと」。NECのスタンドオフである田村優がこうした内容の言葉を仲間に贈る一方、帝京大のスタンドオフの松田がペナルティーゴールを決める。20-17。終盤に貴重なリードを奪ったのだ。途中出場の元気印、ロックの飯野晃司は笑顔である。 「敵陣(の肉弾戦)でどれだけフォワードが我慢するか、でした。体力面では、たぶん、帝京大の方が上回っていた。相手も味方も疲れている時に一生懸命、走る。それが自分の役割」 その後はシーソーゲームも、35分、流主将の「相手のポジショニング」を踏まえたキックが勝負を決めた。敵陣ゴール前右の密集脇にボールを蹴り出し、ウイング尾崎晟也のトライを導いたのだった。28-20。一気に奪える最高得点が7点(トライと直後のゴールを成功した場合)というラグビーにあって、ノーサイド5分前に8点差。 「もう、勝ったな」 この時点での、司令塔の松田の心の中である。