今の日本で「現金払い」は損をしている…それだけでなく「害悪」になっている理由
何を信じ、何を疑うべきか? 無知は搾取される現代社会で、何をすれば得で、損なのか――。ホリエモンこと、堀江貴文氏が解説した『ニッポン社会のほんとの正体 投資とお金と未来』(徳間書店)から一部抜粋して紹介する。 【マンガ】「持ち家か賃貸か」論争…ついに「正解」がわかった!
現金に潜む深い闇
2024年7月、20年ぶりとなる新紙幣が発行された。1万円札には渋沢栄一、5000円札には津田梅子、1000円札には北里柴三郎。最先端の偽造防止やユニバーサルデザインがほどこされ、日本が世界に誇る印刷技術の粋を集めたものだ。 しかし、いま日本は高度なデジタル社会を目指している。果たしてこんな手の込んだ新札が必要だったのだろうか。ナンセンスである。むしろ政府は今後、現金の廃止に向けて本腰を入れるべきだ。 現金廃止は公正な社会を実現する。多くの善良な国民に恩恵をもたらすのである。現金はその匿名性ゆえに不正を招きやすい。賄賂や脱税といった違法行為の大半は、足がつきにくい現金によって行われている。 現金の特性を悪用した脱税は、私たちの身近な場所にもはびこっている。たとえばあなたがお店で現金を支払ったとする。もし、そのお店がその売上げを帳簿に記載しなかったらどうなるか。その時点で脱税が完了する。 店主が売上げの一部をそのまま懐に入れたところでだれもわからない。記載のない売上げはこの世に存在しないも同然だ。税務署もそうそう見抜けるものではない。 特に飲食店では、食材の廃棄や従業員のまかないなど、在庫管理があいまいになりがちだ。現金決済と組み合わせれば、脱税の温床となることは想像に難くない。 もちろん、ほとんどの飲食店は適正に納税している。でも不届き者もいる。その気になれば過少申告なんて造作もないだろう。現金取引はブラックボックスなのだ。 かたやキャッシュレス決済の場合はすべて可視化される。その取引情報の詳細が決済事業者(クレジットカード会社など)のデータベースに記録され、税務申告の際にはその売上げデータを用いることになる。とうぜん過少申告も改ざんも行われにくい。 キャッシュレス化が普及すればするほど、税金の取りっぱぐれは減っていくわけだ。まじめに納税している人々にとって公正な社会になっていく。 キャッシュレス化推進のメリットはそれだけではない。国の支出も削減できる。「1円玉の製造コストは3円」「1万円札の原価は22円」といった雑学を知っている人も多いだろう。現金を製造するには大きなコストがかかる。くわえて保管・流通コストも発生する。そしてそれは私たちが納める税金でまかなわれている。 もちろん、キャッシュレスでも決済システムをはじめとした運用コストはかかる。それでも現金に比べれば安くつく。 かりに国内のキャッシュレス決済比率が80%になった場合、約5兆円の決済コストが発生する一方、約7兆円の経済効果・コスト削減が見込めるとの試算も出ている。 とはいえ、さすがに現金をいきなり廃止するわけにはいかないだろう。さまざまなハレーションが起きてしまう。そこでまずは1万円札や5000円札の高額紙幣から段階的に廃止していくのが現実的だ。かりに1000円札で賄賂をやり取りしようとすれば、従来の10倍の紙幣が必要になる。物理的負担や保管コストも増える。不正の抑止効果はあるはずだ。 高額紙幣が廃止されれば、とうぜんキャッシュレス化は加速していく。お年玉やご祝儀にも電子マネーが使われるようになるだろう。 政府は新札発行などという時代錯誤の政策ではなく、すみやかに現金廃止に向けて 舵を切るべきだ。政府にとってもそのほうがメリットは大きいはずだ。 それなのに日本のキャッシュレス化はなかなか進まない。現在、日本のキャッシュ レス決済比率は約40%だ。お隣の韓国は95%、中国も80%を超えている。 なぜ日本は立ち遅れているのか。その理由は「現金がなくなると困る人」が政財界に大勢いるからなのかもしれない。私は陰謀論を好まない。しかし強い抵抗勢力が裏でうごめいているのではないかと勘ぐりたくなる。現金の闇は深い。だからこそ断ち切っていく必要があるのだ。