文芸評論家・小林秀雄が“疾走する悲しみ”と表現したモーツァルトの名旋律【クラシック今日は何の日?】
クラシックソムリエが語る「名曲物語365」
難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。
モーツァルト『弦楽五重奏曲第4番ト短調K.516』 モーツァルトの“疾走する悲しみ”
今日5月16日は、モーツァルト(1756~91)の弦楽五重奏曲ト短調の完成日です。 音楽史上屈指の天才モーツァルトは、1773年から亡くなる91年に至るまでの間に6曲の弦楽五重奏曲を完成させています。2本のヴァイオリンとヴィオラにチェロという、“室内楽の王道”「弦楽四重奏」に、ヴィオラを1本加えた「弦楽五重奏」という変則的なジャンルは、モーツァルトによって真の価値を見出されたといえそうです。 中でもモーツァルトにとって“宿命の調性”といわれるト短調で書かれた第4番は、モーツァルトの室内楽中最高傑作の誉れ高い名曲です。特に、強い集中力をはらんだ第1楽章冒頭のメロディは、日本を代表する文芸評論家、小林秀雄(1902~83)が、その著書『モオツアルト』の中で“疾走する悲しみ”と表現した名旋律です。 作品の完成は1787年5月16日。モーツァルト作品の中でも最も深い憂いを湛えたこの音楽は、完成直後にこの世を去った父レオポルドの病状悪化が影響していると指摘されています。
田中 泰/Yasushi Tanaka
一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。
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