【相撲編集部が選ぶ九州場所14日目の一番】琴櫻が1敗を守って年間最多勝も確定。千秋楽は豊昇龍との相星決戦に
一年納めの九州場所の結びの一番に、最高の舞台が用意されることになった
琴櫻(上手投げ)大の里 やはり、優勝へまい進している力士と、そうでない力士には、心身の充実度に大きな違いがあるようだ。 優勝争いのトップを走る両大関、琴櫻と豊昇龍が、ともに安定の相撲で相手を退け、1敗を堅持。あす千秋楽結びの相星決戦へと駒を進めた。 大関同士の対戦となる大の里戦で強さを見せたのは、先に土俵に上がった琴櫻だ。 この日は立ち合い、右差し、左おっつけを狙ってきた大の里に対して、手はいつものようにモロ差し狙いだったが、少しはじくように思い切りぶつかって、当たり勝った。 大の里はすぐに右を差しながら左おっつけも使って出てきたが、腰の構えは、大の里はやや高く、むしろ琴櫻のほうが下にあった。 その分、寄られてはいたが、琴櫻にはある程度余裕があったのだろう。左上手に手がかかると、腰高の大の里を上手投げで振り回し、そのまま土俵の外に出した。 【相撲編集部が選ぶ九州場所14日目の一番】2敗決戦は力の差を見せ霧島が勝利。大関昇進後初Vに王手 「落ち着いてしっかり取ることだけを考えました。(土俵際の投げは、体が)反応してくれた」と琴櫻。 この日の取組前までは、64勝で並んでいた大の里に勝って1つ差をつけたことにより、これで今年の年間最多勝を手にすることも確定した。場所前の時点では4勝差があり、よほどのことがなければ逆転は難しいだろうと見られていたが、琴櫻の充実と、大の里の不振が重なり、見事な逆転となった(ただし、あす、もし大の里が勝って、琴櫻が敗れた場合には、琴櫻単独でなく、琴櫻と大の里の2力士が年間最多勝になる)。 “今年、最も多く勝った力士”の称号を手に入れることが決まった琴櫻だが、場所ごとに区切ると、優勝同点が一度あるのみで、優勝がまだない。ここは何としてもあした勝って、年間最多勝に花を添える形にしたいところだ。 「(初優勝は)意識しようがしまいが変わらない。しっかり集中してやれば、結果はついてくる」と、あすの対決へ燃えている。 一方、結びで土俵に上がった豊昇龍も、この日はモロ差しから高々と吊り上げる安全策で霧島に何もさせずに完勝。いよいよ千秋楽の大関同士の相星決戦で雌雄を決することになった。 ちなみに、大関同士の千秋楽相星決戦で優勝が決まるのは、横綱の朝青龍と武蔵丸(現武蔵川親方)がともに途中休場した平成15(2003)年7月場所、東大関の魁皇(現浅香山親方)と西大関の千代大海(現九重親方)が11勝3敗同士で対戦し、魁皇が押し出しで勝って4回目の優勝を飾って以来、21年ぶりのことだという。 優勝をかけた東西の大関同士の相星決戦。一年納めの九州場所の結びの一番に、最高の舞台が用意されることになったが、さて、勝敗のカギはどこにあるだろうか。 最近の対戦成績では、令和5年の7月場所から今年の5月場所にかけて琴櫻が5連勝、そのあと、先々場所、先場所と豊昇龍が連勝しており、この一年だけを切り取ると琴櫻の3勝2敗という記録が残っているが、今回は、正直、過去の対戦はさほど参考にならないのではないかという気がする。 というのは、今場所、豊昇龍が今までとは明らかに立ち合いを変えた「ニュー豊昇龍」になっているからだ。おそらく千秋楽も、立ち合いから積極的に突いて先手を取りにくるだろう。豊昇龍とすれば、この攻めで先手を取り、中に入るか、横について出し投げの打てる形を作って攻めたい。先に先に動ける形になれば、豊昇龍が有利だろう。 琴櫻は、立ち合いからつまえようという意識が先に立って、この攻めを受ける形になると危険だ。立ち合いはこの日と同じようにまずは当たって、はじくなり、豊昇龍の突きをはね上げるなりしていったん勢いを止め、そのあとじっくり組み合う展開に持ち込みたい。同じ高さで胸を合わせる形に持ち込めれば、琴櫻有利だ。 というような展開予想はできるものの、ではどちらが有利かと言われれば、ほんとうに五分五分では? というのが正直なところ。最近の相撲内容も、気持ちの充実度も、どちらも相手に劣るものではないだろう。 琴櫻は勝てばもちろん正真正銘の初優勝、豊昇龍にとっても、勝てば大関になってからは初めての優勝となる。 どちらが勝っても大関としては初めての栄冠になるが、そうであっても、イコール、それは年明けの初場所が、一気に横綱に駆け上がるチャンスである“綱とり場所”になることを意味する。 その権利を手にするのは、琴櫻か、それとも豊昇龍か。さあ、大一番だ。 文=藤本泰祐
相撲編集部