「盤上の美術品」に託されてきた勝負…次なる竜王戦の行方は
藤井聡太竜王が佐々木勇気八段の挑戦を退け、4連覇を果たした第37期竜王戦七番勝負。10月から福井、京都、大阪、和歌山など各地で対局が行われ、盤に向かう2人を間近にする機会があった。
静かな対局室で考え込み、指に駒を挟んですっと腕を伸ばす。その後、升目にきっちりと収めるためか、2人ともよく、指先で2、3度駒に触れる。一連の所作は丁寧で、優しい。
日本将棋連盟会長の羽生善治九段にその印象を伝えると、「タイトル戦の駒は美術品なのです」。地元や関係者が用意し、対局が終わっても各地で大切にされることが多いという。
駒の歴史は、これまでの発掘で千年近く前に遡る。9月に発行された同連盟の創立100周年誌には、平安時代の駒の写真が掲載されている。先のとがった五角形の木片に墨で「玉将」「歩兵」などとある。
『将棋駒の世界』(増山雅人著、中公新書)によると、その後、駒作り専門の職人が出現し、製法も工夫された。変化に富んだ 黄楊つげ の木地に文字を彫って漆を盛るなどし、実際に使用して味わいが深まるとする。
AIが進化しても棋士による対局には、独創的な戦術のほか、言葉やしぐさ、勝負飯などの物語があり、関心を集める。第38期竜王戦は予選にあたるランキング戦が始まっている。長い歴史を体現する美しい駒は、どんな勝負を託されるのだろう。(文化部長 沢田泰子)