メジャーになるに従い「芸能界の闇」と向き合い始めた声優業界。浮かび上がるカネと女性問題…流れをせき止めないのが本当に正解か
◆メジャーの流儀に対応できる会社が残る 産業が大きくなればなるほど、メジャーの流儀に対応できる会社が残ります。裏を返せば、対応できない会社や業界は消えていくことになります。 たとえば芸能界では、テレビ番組に出るには大手芸能事務所じゃないと難しいという認識があります。これは大手事務所は対応力を持っているという信頼関係から成り立っているところがあります。 地方アイドルが注目を浴びても東京に出てきてテレビで活躍する際には大手に移籍することがほとんどです。 小さい事務所でがんばっていても対応できずに大手に移籍する事例をたくさん見ているので、マーケットが大きくなってメジャーになると事務所はその対応力が無ければならないと実感しました。 大手に潰されるという闇ももちろん無いとはいいませんが、タレントが売れると発生する必要な業務に弱小事務所では対応できないことが多いのです。 僕はこうした風潮が見えてきた頃、いかにしてメジャー化の流れからアニメ業界や声優業界を守ることができるのかを考えようとしていました。 メジャーの世界=芸能界です。声優業界が安易に芸能界化することは、望ましくないと思っています。 「声優」という業界の領域、特別な職業/タレントの領分があるからこそ、活躍できる才能があると考えているからです。 そして芸能界の闇を嫌というほどよく知っているからこそ、その闇を採り入れないことが大事と考えているのですが、業界が発展する、即ち「売れる」とどうしても「闇」が持ち込まれてしまうものなのです。 わかりやすく言うと、メジャーになると必ず「お金」と「女性」問題が浮上しますし、様々な業務のなかで精神的に病む子も必ず増えるのです。
◆スクラップ&ビルド 声優業界が芸能界化することに対しての抵抗感は強いのですが、「もしかしてこれは流れをせき止めない方が正解なのでは?」と考えてしまうこともあります。 たとえば人気タレントのギャラは声優の相場と違うので、そういった流れが声優業界に食い込んでくることで、タレントのギャランティーの相場に合わせて、声優のギャランティーも底上げされるかもしれません。逆に淘汰(とうた)されてしまう可能性もあります。 アニメの制作費やそこから支払われるアニメーターのギャランティーが低いことも度々話題になりますが、そこに資本力のある企業が乗り出すなど、外圧によって、伸び盛りの業界は一気に変革される可能性もあります。 スクラップ&ビルドですね。こうした動きは日本のアニメがメジャー産業になったからこそです。 もしそのような流れが加速したら、一気に業界の構造が良くなるのかもしれない。でもそれは劇薬的な処方で、様々な副作用が考えられます。 芸能事務所に所属できるようなタイプの声優だけが、大手に拾われて生き延び、ほかの大多数の声優が滅(ほろ)びてしまうような可能性もあるわけです。声優事務所が芸能事務所に吸収されてしまうかもしれない。 そこに残った声優業界は、本当に僕たちが望む姿をしているのだろうか……こうした危機感も、意識しておくことは大切でしょう。 ※本稿は、『アイドル声優の何が悪いのか? アイドル声優マネジメント』(星海社)の一部を再編集したものです。
たかみゆきひさ
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