たかが5万円、されど5万円…新型コロナ禍で試合が延期、ファイトマネーもバイトもなくなった所属全プロボクサーに大阪名門グリーンツダジムが生活補償金を支給
本石会長は、23日に5万円の振り込みを済ませ、月末には一般会員も含めた50人弱の会員全員に月会費を返還する予定でいる。 新型コロナ対策に50万円をかけて超音波式の電解質の加湿器をジムに設置。5人以上にならないように時間差で自主練を続けてきたが、満足のいくトレーニングは提供できなかった。そして、愛知のジムに新型コロナ感染ボクサーが出たことを受けて、「選手の健康と安全を守りたい」と、この日から緊急事態宣言の期限である5月6日までの完全閉鎖を決定した。ジムも開いていないのに、お金はもらえないというわけだ。 そしてスタッフの給料も通常通りに支払うという。 この日、本石会長は、奥本に直接、5万円を手渡した。 奥本は感激していたが、同時に、こう問われたという。 「会長、ジムの経営の方は大丈夫なんですか?」 ジムの経営に余裕があるわけではない。 グリーンツダジムは、1980年に故・津田博明氏の手によって開設された歴史のあるジムで、浪速のロッキーこと、赤井英和氏からスタートし、2階級制覇の井岡弘樹氏、WBA世界ライトフライ級王者の山口圭司氏、ミニマムの4団体で世界王座を獲得した高山勝成氏、出身としては、WBC世界スーパーフライ級王者の徳山昌守、WBA世界スーパーウェルター級暫定王者の石田順裕氏らの世界王者を誕生させた。だが、津田氏が逝去してから経営が悪化。マネージャーだった本石会長が2014年から経営を引き継ぎ、なんとかジムを立て直してきた。 本石会長はボクシング経験はないが、チーフトレーナーとしての能力と経営能力があり、スポンサー営業を軸にした地道な活動で、地元の興行はいつも満員となっている。だが、今回、4月に予定していた興行ができなくなり8月に延期になった。「収入ゼロ」。しかも、出ていく金はある。ジムの家賃、トレーナーらスタッフの人件費、光熱費…月に120、130万円の固定費の支払いがあり、興行の延期の損失を含めると、昨年に比べて、約2000万円の減収になっている。 「正直、大変で苦しい。先を考えると不安ですが、できる限りやります。これが何かの一石になってくれればとの思いがある、ボクシング界だけでなく、スポーツ業界全体のね。小さいことですが、誰かがやらないといけないこと」 本石会長は、国庫などの無担保、無利子の借り入れを利用して、なんとか経営難を乗り切ろうとしているが、今回の選手救済措置の流れが、広がっていけば、の願いが背景にある。