たかが5万円、されど5万円…新型コロナ禍で試合が延期、ファイトマネーもバイトもなくなった所属全プロボクサーに大阪名門グリーンツダジムが生活補償金を支給
新型コロナウイルスの影響は、プロボクシング界にも大打撃を与えている。興行もストップ、ジム活動も自粛を余儀なくされ、経営危機に陥っているジムも少なくないが、一番の犠牲者は、収入の途絶えたプロボクサーだ。そんな中、大阪の名門ジム、グリーンツダジム(大阪東成区)が22日、活動している所属プロボクサー20人全員に一律5万円の生活補償金を支給することを決め、さっそく配布を始めた。総額100万円の出費だ。4月に予定していた興行が延期となり、ジムは愛知県のジムでプロボクサー2人に感染者が出たことから、この日から5月6日までの完全閉鎖を決め、すでに約2000万円の売り上げ減となっていて、経営は苦しいが、「絶対に守るべきは選手」と、本石昌也会長(44)は男気を見せた。また、この日、JBC(日本ボクシングコミッション)とJPBA(日本プロボクシング協会)の「新型コロナウイルス対策連絡協議会」がオンラインで開かれ、6月末までの興行中止と、選手の救済に向けてのヒアリングをスタートさせることを決定している。
「絶対に守らねばならないのが選手」
これが責任あるリーダーの姿である。西日本ボクシング協会の事務局長でもあるグリーンツダジムの本石会長が、23人の所属選手中、活動をしている20人に5万円の生活補償金の支給を決めた。同ジムには、IBF世界スーパーフライ級9位で前日本同級王者の奥本貴之(28)、元日本ウェルター級王者の矢田良太(30)らが所属しているが、日本のトップランカーから4回戦の選手まで一律に5万円。総額100万円の出費だ。 「こういう時こそ、選手とスタッフを絶対に守らなければなりませんから。若い選手は、ほとんどアルバイトもなくなっています。飲食関係が多いんです。試合もなくてファイトマネーももらえない、バイトもなくなったという状況。たかが5万円を渡したところで生活を救うことはできないと思いますが、これでボクシングを辞める選手が出てきたりすれば、ボクシング界の損失です。じゃあ、今、できることをやろうと」 本石会長は明るいトーンで話した。 きっかけとなったのは、先に手にした15万円だったという。 JPBAは加盟ジムの経営難を救おうと、全国282の加盟ジムに10万円の補償金の支給を決定し、さらに西日本プロボクシング協会では、独自に加盟ジムに5万円を上乗せし、15万円を各ジムに支給した。 今月15日に、本石会長は、西日本協会の事務局長として、その振り込み手続きをしたが、そのお金が「すごく嬉しかったんです」という。 「その時、じゃあ、選手は?と考えました。協会は、まだそこまではできない。じゃあ、僕がやればいい。僕だけが嬉しいじゃあかんと思ったんです」 「たかが5万円」と、本石会長は言うが、されど5万である。 プロボクサー一本で食えている選手は全国でも数えるほど。JBCとJPBAが努力して選手のファイトマネーが保証されるようになってはいるが、ほとんどのボクサーがバイトしながらの兼業で食っているのが実情。同じプロでも、年俸が保証されているプロ野球、Jリーガー、プロバスケット選手とは、経済基盤がまったく違う。しかも、今回、ボクシングの興行の中止だけでなく、そのバイト先まで新型コロナ禍でなくなったのだから、明日の生活に困る選手が出てきても不思議ではない。この5万円は重たい。 政府がすったもんだの末に決めた国民一人への給付金が10万円。もちろん規模は違うが、本石会長の決断の意義と、選手にとっての1万円札の価値は、それよりも遥かに大きいと思う。