女性の「私なんて」は実は楽? 「風に当たっても自分決めたい」前消費者庁長官伊藤明子さんが管理職を選んだ理由
今の時代にフィットした生き方や働き方の先にある女性リーダー像って? そんなテーマを掲げて編集長の鎌田倫子が女性リーダーにインタビューする連載。1回目は前消費者庁長官で、伊藤忠商事やキヤノンで取締役を務める伊藤明子さんにご登場いただいた。前編・後編の今回は後編。 【写真】女性の「私なんて」は実は楽? 本音にたじろぐ編集長 ◇ 後編のテーマは、「リーダーシップ」や「マネジメント」について。伊藤さんは、男女雇用均等法より前に建設省に入省。国土交通省住宅局長や消費者庁長官などを歴任し、組織を引っ張ってきた。これまで私的なことを語るのは言い訳のようで潔しとしなかったという。ただ今となって考えると、「弱さをみせるのが本当の強さかもしれない」。その真意をうかがい、リーダーシップの在り方を考えた。 ――あらゆる場面で「女性初」でしたので、伊藤さんのインタビューやコメントが載った記事はたくさん残っています。でも、プライベートな話はほとんど出てきません。 伊藤明子さん(以下、伊藤):いまがんばっている女性たちも似たようなところがあるのですが、私的なことを言うことを潔しとしないところがある。たとえ、家庭やプライベートで大変な時期だったとしても仕事の言い訳のネタにしたくないという思いがありました。「そんなこと言っても仕事は仕事でしょ」と。 アヒルの水かきなんです。前に進んでいるのは、水面下で必死になって足を動かしているから。でもほかの人にはそれはわからない。がんばっている姿を見せないのが強さだと思っていた。 でも、今になって考えると、もしかしたらそうじゃないのかもしれない。弱さを見せられるのが本当の強さかもしれない。自分の等身大を見せるって怖いことだから。それに、自分の弱さを見せるって、相手の弱さを引き受けることでもあるでしょう?
――考え方が変わったきっかけ、もしくは伊藤さんに影響を与えたことはなんでしょうか。 伊藤:仕事の上では、市役所や内閣官房など他の組織に出向して、それまでと異なるやり方や考え方に触れたことですが、個人的に一番大きかったのは、2番目の子どもの障害がわかったこと。そのことは仕事には直接は関係がないので、取材を受ける機会があっても、これまであまり言わないようにしていました。 自分がどう変わったかは正直わかりません。衝撃を受けて変わるというような、右が左に方向転換とかいうのではなく、人生が深くなるという感じでしょうか。それもじわじわとですね。 障害がある子がいることで、地球の中心に近づくというか、地球の中心に自分を結びつけてくれているような気はします。人間を謙虚にさせてくれます。人が生きているって本当にすごいことなので。 でも、深刻に受け止められると、それはそれで違うかな。子どもは私に似てかわいいんです。親ばかですが、密かにそれは自慢に思っています。もちろん、「私に似て」は冗談ですよ(笑)。 それに、世の中、着実に進んでいます。車いすで出かけるのは、以前はバリアがあって気持ちがくじけましたが、今は相当よくなっている。いい方向に向かってます。 ■「私なんて」は実は楽 風に当たっても自分決めたい ――女性とマネジメントはよく語られるテーマです。現場が好き、仕事の楽しさは現場だと考える、管理職になるのを避ける女性は少なくありません。誰もが管理職を目指すべきだと思いますか? 伊藤:メインテーブルについたからといって自分の思う方向性に変えられるワケではないけれど、後ろでわいわい言っているよりも変えられるかもしれません。私自身は、組織が進んでいく方向や方針を決められる側にいたいと思いました。 管理職になったのは、出世したい、偉くなりたいという気持ちからではなく、決められる自分でいたいから。