女性の「私なんて」は実は楽? 「風に当たっても自分決めたい」前消費者庁長官伊藤明子さんが管理職を選んだ理由
私は、国交省の中の小さい組織の人事を担当したことが、とても勉強になりました。人の動き方とか他の組織との関係の理解が進みました。 ただ人ゴトというのは本当に難しい。先輩からはこんなことを言われました。 「みんなを幸せにすると思うな。人事にできることは人の不幸の度合いを同じくらいにするしかできないんだから、傲慢になっちゃいけない」 マイナスをゼロにするのはわかりやすくて、関係者の意見は一致しやすい。例えば「悪い町」の具体像は、治安が悪いとかインフラが整っていないとかイメージしやすい。それでもやるのは大変です。ましてや、「いい町」は? 幸せはひとそれぞれで、一律に決められないですよね。人財も無尽蔵ではないですから難しいです。 ――まさに金言ですね。そうしたこれまでの経験から、伊藤さんが人と付き合うときに大事にしていることを教えてください。 伊藤:私は基本、おせっかいなんでしょうね。相談されると余分に踏み込みがちです。いったん相手の言うことを飲み込むのは、けっこうしんどい。けど、いろいろ勉強になっておもしろい。 例えば、20代に、とある自治体のシンポジウムにスピーカーとして招かれました。女性がまだ珍しかったからでしょうね。「住みよい県にするために」という壮大なテーマで、若かった私は何を話していいかわからず、必死に用意したのを覚えています。結局、何を話したかも覚えていないけれども、日頃おつきあいいただけない人に会えて、すごく鍛えられた。他流試合もためらわない方がいいと思います。
年を取ると、地位だったり、そんな馬鹿なことはできないという判断だったり、背負っているものがあり、失うものが多くなりがちです。でも、私は、おもしろがった方がいい、自分の手を精いっぱい伸ばしてみた方がいいと思っています。思いがけない時に、そうした経験が自分を助けてくれます。断る力が弱いともいえますが。 ただ「しまった」も多いです。ときどき、大きな声でひとり言を言って解消しています。 そして、やっぱり私はわがままだから、自分で決めたいんですね。「やるべきこと」「やりたいこと」「やれること」がそろって物事は動くと思っていますが、みんながやれることがやれる環境になってほしいと思っています。 【前編】はコチラ〉〉 「どの程度の下駄か、誰もわからないでしょう?」 キヤノン初の女性取締役・前消費者庁長官の伊藤明子さんが本音で語る女性活躍 いとう・あきこ 1962年島根県出身。1984年京都大学工学部卒業。同年建設省入省。2015年国土交通省住宅局長、2019年消費者庁長官。22年退職。23年まち・ひと・しごと研究所 代表取締役、伊藤忠商事社外取締役、24年キヤノン社外取締役。
鎌田倫子