池上彰「中東情勢を理解する第一歩」…エルサレムがユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地になった理由
■火も電気も使えなくなる「安息日」 ユダヤ教徒は聖書に書かれた戒律を守ることが求められ、とりわけ「安息日(シャバット)」を守ることは大切です。安息日には仕事をしてはいけないとされ、これは具体的には火も電気も使ってはならないという意味になります。 ユダヤ教の安息日は金曜の日没から土曜の日没まで。この間、火も電気も使えないので、各家庭は金曜の午後は、土曜の夜までの食事の作り置きに追われます。 電気を使ってはいけないのですが、あらかじめタイマーをセットしておいて、金曜の夜になると部屋に電気が点灯するようにしておくことは構いません。しかし、エレベーターに乗って行き先階のボタンを押すと、新たに電気が流れますから、これはご法度。そこでホテルやアパートでは、エレベーターの一つが「シャバット・エレベーター」に変身。利用者は、エレベーターが自動で一階ずつ止まりながら上下するのに合わせて乗り降りするのです。 ■パレスチナ生まれの改革者・イエス いまから2000年ほど前、現在のパレスチナにイエスという人物がマリアから生まれたと伝えられています。イエスは、ユダヤ教がユダヤ人だけのための宗教で、厳しい戒律を守ることが求められていたことに対して改革運動を始めます。このためユダヤ人のボスに睨まれ、ローマ帝国に引き渡され、イエスの改革が反ローマ帝国の運動に発展することを恐れたローマ帝国によって十字架にかけられ処刑されてしまいます。 ところが、イエスが処刑されて3日後、イエスが復活し、信者たちの前に現れて説教をした上で昇天したという話が広がりますと、「イエスこそが救世主だったのでは」と信じる人が出てきます。 ユダヤ教にはメシア(救世主)信仰があります。いまは苦難に満ちた人生であっても、いずれメシアが降臨して人々を救済してくれるという信仰です。イエスをメシア(ギリシャ語でキリスト)ではないかと考える人たちが、やがてキリスト教徒と呼ばれるようになるのです。 それまで土曜日がユダヤ教の安息日だったことから、キリスト教徒たちは、日曜日を新たに安息日としました。