世界一の剛腕女王・竹中絢音が語るアームレスリングの魅力。「目で喧嘩を売っていると思います、常に(笑)」
「世界最速の競技」、「卓上の格闘技」などの愛称で知られ、世界中で親しまれるアームレスリングが、日本国内でも競技人口をじわじわと増やしている。小学4年生の時に競技を始め、ジュニア世代からその名を轟かせてきた竹中絢音は、今年、競技歴14年目に突入。昨年は国内で複数階級を制し、自身の主戦場である55kg級で世界一に輝いた。スポーツトレーナーと2足のわらじを履き、心・技・体を磨き続ける24歳の女王に、競技の奥深い魅力や戦い方のコツについて話を聞いた。 (インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、トップ写真=Kodansha/アフロ、本文写真提供=竹中絢音)
鍛え上げられた腕周りは約35cm。競技人口1億人の世界王者
艶やかなポニーテールを揺らしながら、156cmの自分よりも大きな相手を飄々(ひょうひょう)とねじ伏せていく。 鍛え上げられた腕周りは約35cm。爽やかで愛らしい笑顔が、そのギャップを際立たせる。 アームレスリングの選手だった父の元、10歳からその才能を磨き続けてきた竹中絢音は、13年目の2023年、WAF世界アームレスリング選手権大会シニア女子55kg級で優勝し、世界王者になった。競技人口は1億人超といわれ、海外には強靭な体格を持つ女子選手もいる。 10代で世界を志し、弛まぬトレーニングを続けて国内外のタイトルを積み上げてきた24歳の女王は、自分のキャリアの中で「アームレスリング以外の選択肢は考えたことがないんです」と言って、控えめに笑った。 迷いなく駆け抜けてきた14年間を経て、彼女は今、どんなステージにいるのだろうか。競技の奥深い魅力や、1秒以内の勝負で繰り広げられる駆け引きとともに、自身の現在について語ってもらった。
1秒以下で決着! アームレスリングの魅力とは?
――竹中選手は2023年のWAF世界アームレスリング大会のシニア55kg級で、左右(両腕)で世界一に輝き、JAWA全日本アームレスリング選手権大会では3階級(57kg 級、65kg級、無差別級)で金メダルを6個獲得するなど、輝かしい成績を残しています。昨年は竹中選手にとって、どんな1年だったのでしょうか? 竹中:コロナ禍で4年ぶりに世界大会に行けた年だったので、今までできなかったことがやっとできるようになって、4年間、なかなか試合ができない中で溜まっていた鬱憤(うっぷん)も晴らしたかったですし、練習で積み上げてきたことを出せる舞台に立てたことはすごく大きかったですね。結果も含めて、イメージ通りに自分のやりたいことができた年でした。 ――アームレスリングは「世界最速の競技」や「卓上の格闘技」とも言われますが、竹中選手が考える一番の魅力は何だと思いますか? 竹中:私が考える魅力は大きく二つあって、一つは年齢とか性別にかかわらず、いろんな人がやりやすいところです。道具など何も揃えなくても練習や試合ができるので、始めやすいです。もう一つは、決着がつくまでの一瞬の中に、今までのトレーニングや積み上げてきた成果をすべて発揮しなければいけないので、その一瞬に凝縮された魅力があると思います。 ――早いと、どのぐらいで決着がつくのですか? 竹中:早いと、0コンマ数秒で決まります。その中に駆け引きがあるので、手を握り合って「レディー・ゴー!」の合図がかかる前から試合は始まっています。長い試合だと10分ぐらい続く人もいますよ。拮抗するとお互いに消耗していくので、倒す力がなくなってきて、決め手が難しくなるんです。私は長くても1分いかないくらいで勝負をつけます。 ――握り合ってから開始までのわずかな時間の中で、相手の特徴を掴んで、戦略を練ったりもしているのですか。 竹中:そうですね。ただ特に世界大会になると、出場選手が10人、20人と多くなりますし、全員に合わせてやっていると自分のスタイルが固まらなくなってしまうので、そういう時はどんな相手にも自分の強みが通用するような戦い方を目指しています。逆に、格闘技みたいなワンマッチだと、基本的に5本勝負で3本先取したほうが勝つので、そういう時はその相手の対策をしっかり練って試合をしています。 ――2022年9月には、AJAF全日本選手権大会の男子の部、A2(上から2番目のカテゴリー)の60kg級(右手)で優勝しています。性別を超えて試合ができるのも魅力ですね。 竹中:そうですね。でも、以前は、全日本選手権に関してはカテゴリーを超えてチャレンジできなかったんです。2019年に「男子のクラスにエントリーしたいです」と全日本の主催の方に伝えたら、その時には断られてしまって……。でも、ちょっと時間を置いてからまたお願いしてみたら、主催の人が変わったみたいで、それでOKになって出場できたんです。