【報知映画賞】「忠実で誠実な大工でありたい」藤井道人監督「正体」が作品賞 封切前ハンデはねのけ「感謝したいです」
今年度の映画賞レースの幕開けとなる「第49回報知映画賞」の各賞が25日、発表された。作品賞は藤井道人監督(38)の「正体」が受賞した。 【画像】「報知映画賞」受賞者一覧! * * * 封切り前の作品という時期的なハンデをはねのけ、「正体」が作品賞を獲得した。藤井監督は「早くに試写をご覧いただき、今年は『この作品だ』と推してくださった。審査員の方々に感謝したいです」と喜びをかみ締める。報知映画賞を「歴代の受賞作を見ても記憶に残るものばかり。『いつか自分もそこに立ちたい』という憧れの場でした」と語った。 昨年公開の「ヴィレッジ」でもコンビを組むなど、今作以前から信頼を寄せてきた横浜流星の存在なしに、この作品は生まれなかった。「俳優の中でも大切なパートナーの一人。別々に仕事をしているときも励まし合ってきた。あ・うんの呼吸じゃないですが、2人で積み上げてきた映画人生があると思っています」。そして「お互い若造ですけど『次はない』『不退転の覚悟』で妥協せずにやってきました」。物静かな口調から、激しい言葉が発せられる。 脱獄した死刑囚を主人公にしたサスペンス。特に「新聞記者」(2019年)以降、社会派作品も撮れる監督のイメージが定着するようになった。「以前はとんがっていて、我も強かった。それが30代後半になり、そぎ落とされたというか。『撮ってくれ』と言ってくれた人、『見てくれる人』を、より思うようになりました」 先ごろ、「正体」を見た台湾の人に言われたという。「藤井監督の映画は優しいですね」と。「優しさを狙って作ったわけではないです。でも、何かにじみ出るものを感じ取ってもらえたのかもしれません」。初メガホンから10年。今や邦画界の若きエースだ。「自分はアーティストではない。でも任せてくれれば、こうなりますよ、という忠実で誠実な大工でありたいんです」(内野 小百美) ◆正体 凶悪殺人事件の容疑者として逮捕され、死刑判決を受けた鏑木(横浜流星)は脱獄に成功。変装し正体を隠しながら逃走を続ける鏑木は、日本中の話題の的となる。刑事の又貫(山田孝之)は、鏑木に接触した人々を取り調べるが、まるで別人のような人物像が浮かび上がる。鏑木の目的とは―。 ◆藤井 道人(ふじい・みちひと)1986年8月14日、東京都生まれ。38歳。日大芸術学部卒。2010年、映像集団「BABEL LABEL」設立。「オー!ファーザー」(14年)で商業作品デビュー。「新聞記者」(19年)で日本アカデミー賞最優秀作品賞など多数受賞。代表作に「ヤクザと家族 The Family」(21年)、「余命10年」(22年)、「青春18×2 君へと続く道」(24年)など。 ▼作品賞・邦画 選考経過 「ラストマイル」にも票が入ったが、1回目投票で大差をつけた「正体」に。「スクリーンに刻み付けた世界が生き物のように勝手に動き出す。これが映画だ」(見城)、「2時間観客を飽きさせず、目の離せない展開が秀逸。今年の作品賞にふさわしい」(藤田)。 ◆選考委員 荒木久文(映画評論家)、木村直子(読売新聞文化部映画担当)、見城徹(株式会社幻冬舎代表取締役社長)、藤田晋(株式会社サイバーエージェント代表取締役)、松本志のぶ(フリーアナウンサー)、YOU(タレント)、LiLiCo(映画コメンテーター)、渡辺祥子(映画評論家)の各氏(五十音順)と報知新聞映画担当。
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