モンテスキューを疑え、斎藤元彦、トランプ、バイデンの決断と行動から「大統領制の欠陥」を考える
私が厚労大臣だった頃を振り返ると、議員が経験を重ねて大臣になるので、与党の議員と内閣が利権で対立するようなことはあまりなかった。事前に自民党内の政務調査会で調整が済んでいるからである。 地方自治体の場合、首長が与党と調整するときは、与党の幹部(ドン)を通じて行うことになるが、フィクサーの頭目のようなドンと対立すれば、政策遂行の邪魔をされることになる。今回の兵庫県の事例はその典型であろう。 地方議会の抜本的な改革をしなければ、日本の地方自治は死滅する。 ■ 米大統領制の機能不全 次期大統領に選ばれたトランプは、精力的に人事を進めているが、イーロン・マスクをはじめ、側近で固めている。国防長官に任命されたFOXニュース司会者のピート・ヘグセスはペンタゴンを率いることができるのかと疑ってしまう。 また、司法長官に選ばれたマット・ゲイツ下院議員には、未成年女性との性交渉疑惑が持ち上がったために、21日、本人が辞退した。そこで、トランプは、元フロリダ州司法長官のパム・ボンディを起用することを決めた。女性初の司法長官である。 まさに、ブレーキ役不在の「やりたい放題」人事である。閣僚などの人事は上院の承認が必要だが、今は、上院も下院も共和党が支配している。つまり、ブレーキ役が不在になってしまう。これも大統領制の欠陥である。 議院内閣制の場合、党内の国会議員による牽制球が投げられるので、首相は、勝手気ままな人事は行えない。
■ 政権末期の大統領が重大決断 バイデン政権は、11月17日、ウクライナに長距離ミサイルの使用を許可した。それは、戦争を拡大させる危険性を孕んでいる。政権末期にこのような決定を下すこともまた、大統領制の問題点である。 アメリカ政府は、北朝鮮の兵士がロシア軍に参加したために、それへの対抗措置としている。しかし、射程300kmのATACMSがロシアを敗北させ、停戦につながるわけではない。巨大な軍事力、核兵器、資源を有するロシアは容易には負けない。 トランプは、大統領に就任したら24時間以内に戦争を終わらせると豪語している。その前に、去りゆく今のバイデン政権は、少しでもウクライナに有利な軍事状況を作り出そうというのである。 プーチン大統領は、欧米を牽制するために、核兵器の使用基準を引き下げた。これが、直ちに実行されるわけではないが、第三次世界大戦につながる危険な要素であることは間違いない。 イギリスもまた、射程250kmのストームシャドーの使用を許可し、すでにウクライナは使用したという。 ウクライナは、21日、アストラハン州からドニプロに向けてロシアがICBMを発射したと発表した。しかし、プーチンは、この発表を否定し、ICBMではなく、新型の中距離弾道ミサイルであると述べた。新開発の「オレシュニク」という名の極超音速中距離弾道ミサイルで、報復と実験を兼ねたものだったという。 発射前にロシアからアメリカに通告があり、アメリカ側も中距離弾道ミサイルであることを確認している。 国際法違反のロシアに対して、大統領制のアメリカの最近の対応は必ずしも適切ではない。モンテスキューやマディソンの求めた三権分立という理想は、あまりにも大きな代償を伴っているのではなかろうか。
舛添 要一