おかずはかにかま。安くて何回かに分けて…学生の貧困訴える声は政治家に届いているのか
高等教育費の負担軽減、奨学金の返還免除制度の拡充、教育の全課程の無償化…。衆院選で与野党はそれぞれ公約を掲げて支持を訴える。ただ、政治とカネの問題などの争点に隠れ、経済的に厳しい学生をどう支えるかの論戦が深まっているとは言い難い。 衆院選トレンド調査 小選挙区投票先、野党系が与党系を上回る
■おなかが鳴れば水を飲み、息を吸ってごまかす
かにかまをおかずに、前日残しておいたご飯を口にする。寮で暮らす山口県内の大学4年の女性(22)。かにかまを買ったのは、安い上に何回かに分けて食べられると思ったから。ご飯がない日は納豆と合わせた。「栄養バランス終わってる。体に良くないな」。分かっているが食費を削る。物価高。切り詰めないと生活できないためだ。 実家は母子家庭。障害のある母が思うように働けず、暮らしぶりは子どもの頃から楽ではなかった。それでも母は看護師を目指す娘を大学へと快く送り出してくれた。「資格を持って社会に出ないと、貧困のループになるから」。母の思いを後にそう教わった。 だが、生活は厳しい。平日は講義と実習で一日が終わる。複数の奨学金と週末のアルバイト代の合計は月約14万円。半分は平日2食付きの寮費に回り、残りは高校で受けたあしなが奨学金の返済と国民年金の納付に充てる。引き出せる金額は多くても月3万円。それも光熱費や消耗品代、週末の食費で次々と消える。自由に使えるお金はわずかだ。 大学では、昼は前日の残りものを食べるか抜く。授業中におなかが鳴れば水を飲み、息を吸ってごまかす。自室ではエアコンを使わない。冬は布団をかぶって机に向かい、夏は窓を開けてやり過ごした。奨学金には感謝しかない。ただ、卒業後は今の返済に大学の奨学金分も加わる。約200万円という。今後を案じ少しでも蓄えに回す。 女性は思う。「貧しくて困っている人の声ってどれだけ届いているんだろう」。多額の「借金」を背負って社会に出ざるをえない世の中にも疑問を感じる。
■貸与型奨学金、7割が返還に不安
全国大学生協連の2023年調べによると、何らかの奨学金を「受給している」とした学生は28・9%。貸与型の奨学金受給者の約7割が返還に不安を感じていた。日常生活の悩みを「生活費やお金のこと」としたのは47・0%。2年続けてトップだった。 若者の貧困に詳しい県立広島大の田中聡子教授(社会福祉学)は「奨学金の返済が何百万円に上るケースもあり、多くの学生が返していけるのか心配している」と説明。「これからの社会を支える人たち。給付型が普及するよう、国が力を発揮すべきだ」と指摘する。 女性は来春、県内の医療機関に就職する予定。看護師となり、返済を果たすつもりだ。「自分に子どもができても、私が貧困だったら連鎖する。断ち切れたらいいなって思う」。言葉に力を込める。
中国新聞社