ついつい手が伸びる「大菩薩峠」 ちくま文庫で全20巻、読めば読むほどうならされる…中里介山という作家の力量
【花田紀凱 天下の暴論プラス】 今、着々と中里介山の『大菩薩峠』を読み進めている。 ちくま文庫で全20巻。昨年、神保町の古書の名門、一誠堂書店の店頭で見つけて思わず購入した。20冊がたったの5500円、1冊300円足らず。 10月初めから読み始め、年内に読み終えるつもりで読み出したのだが、これが実におもしろい。あっという間に6巻まで読んでしまった。 困るのは、『大菩薩峠』ばかり読んでいると、他の本が読めないこと。仕事上、読まなくてはいけない本も少なくないのだが、ついつい、『大菩薩峠』に手が伸びてしまう。 『大菩薩峠』がおもしろいのは実はよく知っていた。 というのも2014年に論創社から、『大菩薩峠【都新聞版】』全9巻が出版され、森下紀夫社長に勧められて、それは読んでいたからだ。 日本思想史の研究者伊東祐吏さんが、編集、校訂し、中里介山が8年間にわたって断続的に都新聞に連載した分を、全9巻にまとめたもの。 この9巻が素晴らしいのは、連載当時の井川洗厓による挿絵を連載当時のまま全部収録していることだ。 ちなみに中里介山は当時都新聞の一社員で、単行本化するときは介山自身が文選、植字、印刷なども趣味を兼ねて手作業で行っていたという。 その後、連載は大阪毎日新聞、国民新聞、読売新聞などに移って続けられ、大長篇となったわけだ。 論創社版があんまり面白かったので、全巻読もうと思っていたら、2019年の神田古本まつりで、戦後すぐ出版された、『大菩薩峠』たしか全12巻というのを見つけた。 戦後すぐの出版だから紙質などは良くないが、なにしろ読みたい一心で買ってしまった。 で、論争社の続きの部分から読もうと思うのだが、何度、探しても、その「つなぎ目」がわからない。 章を追って、辿(たど)るのだが、わからないのだ。後に知ったのだが、介山は単行本にするとき、大幅にカットしたらしい。何度も書き換えたりしたとも。 で、その時は挫折してしまい、その全12巻は、自分の本を処分するときに持っていってもらった(だから、今、正確な巻数も、出版社もわからないのが残念)。