どん底からの逆転劇!『実家に帰ったら甘やかされ生活が始まりました』優しさを貫く少年のシンデレラボーイストーリー【書評】
虐待を受けながらも健気に生きる少年が、ある日を境に人生が180度変わってしまう。そんな様子を描いた『実家に帰ったら甘やかされ生活が始まりました』(幹藻ねずみ:漫画、月夜乃古狸:原作、うなさか:キャラクター原案/主婦と生活社)は、人気ライトノベルのコミカライズで心温まるシンデレラボーイストーリーである。 【漫画】本編を読む
学校では受験のストレスのはけ口にされ、家では生きている価値がないと言われ、虐待と家事に追われる日々。辛い環境においても誰も恨むことなく、さらに生活費を稼ぐべく新聞配達のバイトに懸命に取り組む純真な少年、井上達也。過酷な環境下でも失われることのない彼の優しさと純粋さに、胸が締め付けられる。ある日、達也のもとに一人の弁護士が現れ、物語は大きく動き始める。達也は、1歳の時に誘拐された資産家の息子、西蓮寺陽斗だったのだ。 それまでの暗く辛い日々から、一転して華やかで温かな生活へと変わることになった陽斗。今まで食事すら満足に与えられなかった陽斗は、初めて訪れた中華レストランでその美味しさに感動し、思わず涙を流す。この素直さに、心を強く掴まれる読者も多いだろう。 真面目に努力する彼の周りには、新聞配達の仲間や学校の同級生、教師など、そっと見守る存在がいる。今までとは180度違う生活に戸惑いながらも感謝の気持ちを忘れず過ごす陽斗にはどうしても叶えたい願いがあった。それは、高校に進学すること。陽斗の願いの切実さからは、これまでの境遇では許されなかった「普通」が、いかに貴重なものであったかが痛いほど伝わってくる。 これから陽斗がどんな高校生活を送り、今まで支えてくれた人々にどんな恩返しをしていくのか。彼の成長を共に見守りたくなる。心優しい少年の再生物語として、癒しを求める読者にぜひおすすめしたい一冊だ。 文=ネゴト / Ato Hiromi