激減する退職金、増加する早期退職…定年前の会社員は何を考え、準備しておくべきか
増える早期退職
一方で、退職金額の推移をみると、2013年から2018年までの間、勤続年数が20~24年では826万円から919万円に、25~29年では1083万円から1216万円と、比較的短い期間の勤続年数の社員の退職金が増えている。これは企業が早期退職による退職金額を相対的に増加させているからだとみられる。 過去、リーマンショックによる景況感の悪化に応じて、多くの企業で早期退職が行われたのと同様に、近年、コロナ禍における業況悪化に伴い、早期退職が増える傾向が見て取れる(図表1-8)。 また、早期退職実施企業数の増加はコロナ禍の影響も大きいものの、黒字であっても早期退職制度の導入に乗り出す企業が増えていることも昨今の特徴としてあげられる。 2021年に早期退職勧奨の実施が報道された企業をみると、ホンダ、パナソニック、フジテレビ、JT、博報堂などがあるが、これらの企業は必ずしも経営危機の状態にあるわけではない。 それでもなおこれらの企業が早期退職勧奨の実施を決めた要因として、社内の人口構成の偏りを解消するためと説明されているケースが散見される。 また、デジタル化の進展によって中高年社員のスキルが陳腐化しているからといった、ビジネス環境の激変を理由としている企業も多い。 人口構成の均衡の確保という意味では、早期退職勧奨の流行の裏には高年齢者雇用の負担感の強まりも影響していると考えられる。 60歳で定年を迎える時代であれば、50代中盤の社員の残りの会社員人生はわずか5年であったから、財務に余力がある企業であれば、わざわざ早期退職を募る必要はなかった。 しかし、将来的には70歳までの雇用が企業責務となると予想されるなか、高年齢者雇用の人件費負担は企業に重くのしかかっているのである。 近年広がりを見せている早期退職制度であるが、一従業員としてはこうした動きをどう受け止めればよいだろうか。 個人側として重要なのは、このような企業側の対応について感情的に向き合うのではなく、様々な選択肢のうちの一つとして戦略性をもって対応するということだと考えられる。 つまり、このまま現在の企業で勤め続けた場合に受け取れる賃金及び退職金額と、早期退職制度に応じた場合に受け取れる割増退職金と転職後の賃金を比較衡量の上で冷静に考えることが必要とされているということである。 とかく否定的に報道されがちな早期退職制度ではあるが、当然に、企業側としては雇用契約の合意解約を前提としなければならないことは言うまでもない。 つまり、企業側と労働者側の両者の合意があって初めて雇用契約が解消されるのであって、企業側は従業員に対して退職を強要することはできない。 過去に一部の企業で行われた追い出し部屋への誘導や、ブラック企業で蔓延している不当解雇などコンプライアンスに反する行いをどう是正していくかは、また一つの問題として憂慮すべき重要な課題である。 ただ、こうした対応を行う企業を除けば、あくまで早期退職制度の適用は従業員の自由な選択に委ねられている以上、労働者としては応じるか応じないかの損得をあくまで慎重に判断することになるだろう。