温暖化で首都が半分沈む島国ツバル、人々はどうするのか実際に現地に行って聞いてみた
共同体重視の価値観
2023年11月、ツバルとオーストラリアは、気候変動と移民に関する二国間の「ファレピリ連合条約」を結んだ。これにより、オーストラリアはツバルの海岸再生プロジェクトを支援するため1690万オーストラリアドル(約18億円)を提供し、毎年280人のツバル人にオーストラリアで永住するための査証(ビザ)を発給する。 フナフティの住人は条約に対して様々な意見を持ち、歓迎する人もいれば、ツバルの主権が狭められることを懸念する人もいる。 「オーストラリアにできる最も良い支援方法は、化石燃料産業をやめることです」と、気候変動問題に取り組む非政府組織「ツバル気候行動ネットワーク」の事務局長リチャード・ゴークラン氏は言う。 政府は、気候変動によって島に人が住めなくなったとしても、ツバルの主権と、領海での漁業権を維持できるよう取り組んでいる。2023年9月、ツバル議会は永久に国家を存続させるという憲法改正案を全会一致で可決した。現在、ほかの国にもこれを正式に認めるよう求めている。 ツバルはまた、2つの大規模なインフラプロジェクトを進めている。1つは、主に国連の「緑の気候基金」から資金援助を受けた土地再生構想だ。海中から採取した砂を使って、フナフティに約5平方キロメートルの保護地区を造成する。 もう1つは、政府のサービスや歴史的遺物をメタバースに「デジタル移行」させる「フューチャーナウプロジェクト」だ。これによってツバルの人々は、土地が消滅した後も文化的アイデンティティを保てるようになる。 ツバル人は、共同体を重視する価値観によって不確実な未来を生き抜こうと、できる限りの手を尽くしている。2020年にオーストラリアを大規模な森林火災が襲ったとき、ツバル政府は30万オーストラリアドル(約3300万円)の見舞金を送った。 当時の国内総生産(GDP)に占める割合という点では、オーストラリアからツバルに送られたどの支援金よりも大きな額だったが、それでもオーストラリアのような大きな国にとって30万ドルは大海のなかの1滴にすぎない。どれほどの役に立つのかと、一部の政府関係者は支援に反対していた。 しかし、問題は額ではない。「政府のなかで私たちがどう行動するのかと、共同体レベルでどう生きるかとの間に乖離があってはなりません」と、当時のツバル外相だったサイモン・コフェ氏は言う。「そうなってしまったら、自分たちの利益しか考えないほかの国々と同じになってしまいます」 国際社会はツバルのことを、海面上昇によって消えゆく哀れな国として見ているかもしれないが、むしろツバルの方が西側の先進国を哀れに思うのではないだろうか。西側諸国は終わりのない物質的な富と成長だけを追求し、気候危機に対応するために協力して行動するとはどういうことかを見失ってしまっている。 コフェ氏は言う。「世界中の国々が、自分たちのことだけを考えてきた結果がこれです。そのような振る舞いは、もうやめるべきです」
文=Simone Stolzoff/訳=荒井ハンナ