<インド>水不足の影で(その2) ── 高橋邦典フォト・ジャーナル
ある日、町内会のメンバーたちが「水泥棒」を捕まえるというので、同行することにした。上水のパイプに穴をあけ、違法に搾取した水を売りさばいている男が隣のコミュニティーにいるらしい。指定された場所に出向き、待つこと1時間。日が沈みあたりが暗くなるころ、10人ほどのグループがある家に押し入った。引っ張りだされたのは一人の女性。もがく彼女は女性たちに押さえつけられ、犯罪者の烙印として、顔には黒いインクが塗りつけられた。どうやら犯人は不在だったらしく、代わりにその妻が捕まったようだ。彼女が共犯かどうかは定かでないが、誰かを捕まえなければ、メンバーたちの気がすまなかったのだろう。
野次馬も含めて30人ほどに膨れ上がったグループが、勝ち誇ったように叫び声をあげながら女性の両腕をかかえ警察までの道のりを歩き始めると、抵抗していた彼女も途中であきらめ首をしなだれた。その光景はまるで、 罪人を晒しながら街を歩く「市中引き回し」のようにみえた。 水問題の本質は、こんなところにはないんだけどな…。引き回されるべきは、こんな「こそ泥」ではなく、市民の窮状につけこんで金を儲ける政治家や水マフィアだろう。何枚かシャッターを切ったものの、あまりに彼女が哀れで、こちらまでやるせなくなってしまった。 (2010年3月) ---------------- 高橋邦典 フォトジャーナリスト 宮城県仙台市生まれ。1990年に渡米。米新聞社でフォトグラファーとして勤務後、2009年よりフリーランスとしてインドに拠点を移す。アフガニスタン、イラク、リベリア、リビアなどの紛争地を取材。著書に「ぼくの見た戦争_2003年イラク」、「『あの日』のこと」(いずれもポプラ社)、「フレームズ・オブ・ライフ」(長崎出版)などがある。ワールド・プレス・フォト、POYiをはじめとして、受賞多数。 Copyright (C) Kuni Takahashi. All Rights Reserved.