量子力学の将来とは。/執筆:野村泰紀
量子コンピューターを用いれば、いままで経験に頼っていた創薬なども、コンピューター上の計算で行うことができるようになるかもしれません。また、量子コンピューターの驚異的な計算能力は、現在使われている暗号(銀行やクレジットカードなどを含む)をすべて解読してしまうことができると考えられています。これは一大事ですが、幸い原理的には量子コンピューターを使っても盗めない方法で情報を送る手段が存在します。それは量子テレポーテーションと呼ばれる技術で、情報をある地点から別の地点にその間の空間を通ることなく送ることができるという方法です。この量子テレポーテーションが実際に可能であるということを実験的に証明した研究は、2022年のノーベル物理学賞を受賞しています。 このような量子技術は、世の中の在り方を根本から変えてしまう可能性があるため、米国、中国などは国の威信をかけて研究に取り組んでいます。もちろん日本もそうです。特に米国では、これらの技術が国防に直結することから、その研究には膨大な予算がつぎ込まれています。これは、あたかも第2次世界大戦中に原爆開発を行ったマンハッタン計画の再現を見ているような印象を与えます。 約80年前に世界で初めての実用コンピューター(重さは約30トン!)が誕生した時に、現在のスマートフォンがあふれ、インターネットで世界中がつながった世界を想像できた人はほとんどいなかったでしょう。同じように、量子技術がどのような世界を作っていくのかは、まだ分かりません。しかしシティボーイたる皆さんには、このような最新の発展を知って頂きたいと考え、本コラムを執筆しました。もしそれなりに楽しんで頂けたのであれば、嬉しく思います。
プロフィール
野村泰紀 のむら・やすのり|物理学者。1974年神奈川県生まれ。理学博士取得後渡米し、現在はカリフォルニア大学バークレー校教授。直近の著書に、YouTubeチャンネル『ReHacQ─リハック─』での配信を元にして書籍化した著書『なぜ重力は存在するのか 世界の「解像度」を上げる物理学超入門』がある。 text: Yasunori Nomura, edit: Momoko Ikeda
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