タイトルからトリックが始まる! 配信ドラマがより楽しめる世界が認めた原作ミステリ解説 Huluオリジナル「十角館の殺人」
映画版『アナザー』では省かれた叙述トリック
学園ミステリ小説「Another」で、綾辻作品と出会った若い世代も多い。「Another」は、山崎賢人&橋本愛による青春ホラー『Another アナザー』(2012)として実写映画化されている。古澤健監督による映画版『アナザー』は、NHK連続テレビ小説「あまちゃん」でブレイクする直前だった橋本愛のミステリアスさを前面に押し出した作品だった。眼帯姿の橋本愛の美少女ぶりは特筆されるが、原作の「叙述ミステリ」としての面白さは残念ながら省かれた形となっていた。 小説という文字メディアゆえに成り立つ「叙述ミステリ」は、映像化が極めて難しい。その困難なハードルに今回「十角館の殺人」で挑んだのが、内片輝監督だ。朝日放送で1999年~2008年に放映されたテレビドラマ「安楽椅子探偵」シリーズ(綾辻と有栖川有栖との共作)では、ディレクターを務めている。「安楽椅子探偵」は関西ローカルながら、出題編と解答編の2週にわたって放送された画期的な懸賞金付きの番組だった。 その後、朝日放送を離れてフリーとなった内片監督は、水谷豊主演ドラマ「相棒」(テレビ朝日系)やWOWOWドラマ「殺人分析班」などの人気番組を手掛け、キャリアを磨いてきた。そして綾辻との出会いから20年越しで実現させたのが、今回のHulu版「十角館の殺人」というわけだ。 脚本には「半沢直樹」「VIVANT」(共にTBS系)などの大ヒット作を放った八津弘幸らを起用。キャストは探偵コンビに扮した奥智哉と青木崇高の他に、仲村トオル、草刈民代、角田晃広、河井青葉、前川泰之、池田鉄洋、濱田マリといったクセのある実力派俳優を配役。角島で惨劇に遭遇するミステリ研究会のメンバーには、元欅坂46の長濱ねる、宮部みゆき原作のミステリー大作『ソロモンの偽証』(2015)でインパクトを残した望月歩ら、今後の活躍が期待される若手俳優たちがキャスティングされている。 原作を完全映像化した全5話となっており、第4話のラストにミステリ界の伝説となった「あの一行」が用意されている。原作ファンは「あの一行」がどのように映像化されたのか、また原作未読の方は真犯人が誰なのか、ぜひ確かめてほしい。