“凱旋試合”に垣間見た45歳のイチローが引退を拒絶して戦い続ける理由
東京ドームが“イチロー愛”であふれていた。 17日に行われた巨人対マリナーズのプレシーズンマッチ。試合開始が正午のゲームに午前中からドームの外にファンがあふれ、4万6315人の人でスタンドが埋まった。 「ビックリしました」 イチローも言う。 試合前のバッティング練習でイチローがバックスクリーンに打球を放り込むと歓声が沸き、「9番・ライト・イチロー」とスタメン出場がアナウンスされると、またそのボルテージが上がる。試合直前のルーティンで外野を走り入念にストレッチをするイチローの姿に4万人の視線は釘付けになっていた。イチローは、試合開始の本当のギリギリまで三塁側にせり出したシートに群がったファンのサインに応じた。マンツーマンでついていた警備員が「押さないで下さい」と連呼して、おかねばならないほどだったが、ファンは礼儀正しく、そこでパニックは起こらなかった。 いきなりイチローが魅せる。 1回裏。一死から坂本勇人の大飛球がライト後方を襲う。デーゲームの東京ドームは、日光が天井を覆うクリーム色の膜を通してくるため打球が見にくい。7年ぶりの東京ドーム。慣れない環境だったが、イチローは、フェンスとの距離をうまくはかりながら打球を追い、最後は横向きでキャッチした。直後にフェンスに体をぶつけるほどのプレー。試合後、サービス監督が「素晴らしいキャッチ」と絶賛した好守である。 スタンドから歓声と拍手が起きるとイチローは感謝の意をこめて、片手を突き出し、その声援に応えた。 第一打席は二回無死一、二塁の場面だった。イチローがいつものように“侍ポーズ”に入ると、歓声と共に一斉にスマホのライトが灯る。 イチローは感激していた。 「いい雰囲気、東京のファンは品があるね」 マウンドには先発ローテーに入る巨人の左腕、今村信貴。イチローとは20歳違う。今村は「こねくりまわすより、ストレート1本でスーパースターと勝負したかった、それが本音」と全球ストレート勝負できた。初球は134キロだった。 「球遅いでしょ(笑)。ダグアウトから見ていても(メジャーの投手のスピードと)明らかに違うからね。球が速いピッチャーじゃないと思うけどビックリした。でも途中から丁寧に一生懸命投げていたね。先発の子」 メジャーの平均スピードよりも10キロ以上も遅いストレートに戸惑いがあった。おそらくイチローにしてみれば変化球をミックスしてストライクをとってもらったほうが調整になったのかもしれない。フルカウントから137キロの低めのストレートに逆に差し込まれてセンタ―フライ。わずかだが体が前へ動いていた。実は、速いボールに慣れているプレーヤーは、遅いボールほどアジャストが難しい。言ってみれば、全球チェンジアップのようなものだ。その分、ボールと体の距離が近くなり、遅いボールに差し込まれるという現象が起きる。 4回の2打席目は、130キロ台のストレートを逆にひきつけすぎて叩きつけるようなスイングになった。高いバウンドのセカンドゴロ。それでも、イチローは打席ごとに微修正を進め、3打席目となった6回には、2番手の左腕、田口麗斗のカウント2-0からの135キロの甘いストレートを芯で捉えた。だが、引っ張りすぎてライト線へのファウル。結局、センターへ抜けそうな打球を坂本にうまくさばかれた。これも、少し差し込まれていたが、タイミングやカタチは決して深刻なものではない。いわゆる野球界でよく使われる「1本出れば変わる」という状態に見えた。