巨大津波にのまれた母校への思いを映画に:佐藤そのみ監督の2作品、“封印”を解かれ劇場公開
上映することへのためらいを越えて
2作品のお披露目は2021年3月、石巻の小さな会場で行った上映会だった。その後しばらくは、コロナ渦だったこともあり、上映の機会はほとんどなかった。 「実は上映することにまだ抵抗がありました。“封印”しようと思っていたんです。映画としてのクオリティーに自信がなかったし、デリケートな題材なので、観た人がどう思うか怖かった。地元の人たちの心をかき乱すのではないかとか。そう考えているときは、すごく苦しかったですね。命を削るようにして作った作品だったので、それを封印するのは自分自身を否定するようで」 各所から上映を望む声が届くようになったのは2022年に入ってからだ。12月には、震災後にできた多目的施設「大川コミュニティセンター」で上映会が開かれ、およそ200人が詰めかけた。それを機に全国に広がった自主上映会は30回を超えた。 「封印したかった気持ちも徐々に和らいでいきました。それ以前は、自分に決着をつけるために、自分が次に進むために作ったところが大きかった。上映会をしながら少しずつ作品とも距離がとれるようになってきました。思いがけないすてきな感想もいただけて、被災者が作ったという側面以外で見てもらえるのがすごくうれしい。映画が私をいろんなところへ連れていってくれて、いろんな人に出会わせてくれる。作ってよかったなとようやく最近思えるようになりました」 被災者として、遺族としてカメラのレンズを向けられた日々から、来年3月で14年。佐藤監督にとって震災の前と後の年月が同じ長さになろうとしている。 「あのとき取材をたくさん受けたことで、撮る側に行きたいという気持ちがより強くなったのかもしれませんね。誰かの視点を介してではなく、自分の声で、自分の映画で届けたいという思いはずっとありました。いま能登で、当時の私たちみたいな状況にある子どもたちがいます。映画が子どもたちの内面に想像力を働かせる助けになったらいいなと思います」 取材・文:松本卓也(ニッポンドットコム)