巨大津波にのまれた母校への思いを映画に:佐藤そのみ監督の2作品、“封印”を解かれ劇場公開
大川小学校を舞台に
実際にあったさまざまな出来事を背景に散りばめながら、ストーリーを動かしていくのは祐未と親友れいの関係だ。 「自分を含む何人かの要素を2人それぞれに入れつつ、展開はまったくの創作です。まず思ったのは、当時の私と同じ14歳くらいの子たちが一番身近に描けるんじゃないかなと。周りの大人に言えなかったことがたくさんあったので、それを入れたかった。大人になってあの時の感覚が消えてなくなってしまうのが悲しくて、覚えているうちに形にして残しておきたいなと」 2021年7月、校舎は石巻市の「震災遺構」として保存が決まったが、撮影はその2年以上前。今では見ることができない整備前の貴重な記録にもなっている。 「当時から遺族だけ立ち入りが許されていので、私が中を撮れば多くの人に見てもらえるなと。ただ、たくさんの人が亡くなった場所にカメラを置いて映画を撮ることが不謹慎ではないかという迷いもあった。勇気を出して、遺族会の会長さんに許可をもらいに行ったんです」 小さなすれ違いで疎遠になってしまう祐未とれい。監督は終盤、再会の場所を用意する。2人が妹を失った母校の大川小学校跡だ。監督自身の母校でもある。 「毎日、なんて幸せなんだろうと子どもながらに思っていたくらい小学校時代が大好きでした。その場所があんなことになってしまったのは、中学生の時すごくショックだった。変わった形の校舎で、とても愛着があります。映画にしたら面白いんじゃないかとずっと思っていました。だからラストはあそこで撮りたかったんです」
卒業制作にドキュメンタリーを選んだ理由
震災遺構となる前には取り壊しの案もあった。保存派の中心となって動いたのは大川小OBの中学・高校生たちで、当時高校3年生だった佐藤監督もその1人だ。 「見ると思い出してしまってつらい、という気持ちもよく分かりました。でも私たちは残してほしかった。誰かが声を上げないと壊されてしまうと思い、有志で意見表明をしたんです」 発表が行われたのは、保存か取り壊しかを住民投票で決める日だった。それまで取り壊し派が優勢だったが、中高生たちの呼びかけにより土壇場で形勢が逆転したという。 この意見発表の場面が収められているのが、『春をかさねて』と併映される『あなたの瞳に話せたら』だ。 『春をかさねて』を撮り終え、大学に復学した佐藤監督が卒業制作として作った29分のドキュメンタリー。監督自身が妹に宛てた手紙で、大川地区の近況や今の思いを語りかける。 「最初はドキュメンタリーを撮りたくなかった。あまりに直接的だし、自分も撮られることが多かったので、撮られる側のつらさが想像できましたから。“作り物”なら誰かが自分を犠牲にしなくていい。でも結局、卒業制作をドキュメンタリーにしたのは、1人でも撮れるからです。復学すると、1学年下のチームがすでにでき上がっていて、そこにお邪魔するのも申し訳ないと思って」 企画を考えながら、『春をかさねて』で描けなかったことがあるかもしれないと思ったという。特に、震災後の大川小をめぐる複雑な状況を多様な視点で語ることができるのではないかと。 「『春をかさねて』が説明のない、どこか夢の中のような作品なので、より現実的に、立体的にくっきりするような、そんなドキュメンタリーにしたいという思いもありました。『あなた』は亡くなった人だけに向けた呼びかけではないんです。大川小の裁判があったとき、原告になった遺族は誹謗中傷に苦しみました。地元からも悪く言う声が聞こえてきた。裁判で真相究明を求めざるを得なかった状況があるのに、それを知りもせず、知ろうともしないで批判する人がいることに胸を痛めて、そういう『あなた』にも分かってほしいとの思いを込めたんです。怒りのような感情が先にあったかもしれません」