臓器のための簡単な接着材開発 外科手術短縮へ 岡山大など
水分がほとんどない角化層ではくっつかないが、真皮や臓器には接着するので、手術の際に簡便に利用できる。松本教授はこの仕組みについて「米がのりの役目を果たすようなイメージ。水分が全くないときと、多すぎるときにはくっつかず、少ないと粘性が出る」と話す。フィブリンのりの3倍の接着力が出せることが分かった。
接着材形成時の焼成温度が変わると、リン酸カルシウムの密度が変わる。600度くらいまでは一定の接着力を保持するが、温度をさらに上げるほど、接着力は下がっていくことも分かった。密度が変わることで、多孔質の隙間の大きさが変化する。それにより水分量を調節し、接着力の強弱に関与しているとみられる。この温度差を利用すれば、強く貼り合わせなければならないものと、弱い接着で良いものといったコントロールが可能になる。なお、水を大量に流すと接着力を失い、はがれる。
豚の肝臓を用いて、実際の臓器で作用するかどうか実験した。面ファスナーの裏面に接着材を9個並べて行ったところ、くっついたり、水ではがれたりして、接着材の役目を果たしていた。さらに、組織標本で変化がないか調べたところ、臓器に傷が付くことはなく、有害事象は生じていなかった。また、滅菌のために洗浄しても壊れない。今後はヒトへの応用を目指し、実験を続けるという。
スウェーデンでは、決済などのためにマイクロチップを体内に埋め込む人が増えている。生体に埋め込むチップは小さく、体内で動かないようにする工夫が求められる。松本教授は「(米起業家)イーロン・マスク氏らの会社『ニューラリンク』でも脳内埋め込み型デバイスの開発が進められているように、ヒトへの埋め込み型デバイスは将来的に普及していくと思う。今回の接着材が人間に使えることが分かれば、デバイスの固定や撤去を容易にするために使えるのではないか。さらに、ペット用のマイクロチップにも応用できると思う」と話した。
研究は日本学術振興会の科学研究費助成事業と、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業「CREST」の助成を受けて行われた。論文は米科学誌「アドバンスド ヘルスケア マテリアルズ」電子版に5月1日に掲載され、同月24日に岡山大学が発表した。