リサイクルショップで買った「布の切れ端」は革命の目撃者!? 歴史的発見に学芸員も大興奮
2022年、歴史愛好家でコレクターのリチャード・ダナ・ムーアは、アメリカに4000店舗以上を構えるリサイクルショップ「グッドウィル」のオンラインオークションで、アメリカ建国の父ジョージ・ワシントンが独立戦争中に使っていたテントの一部と見られる額装されたキャンバスの断片を発見した。この断片は幅約10センチで、一緒に額に収められていたメモには、これが1907年に行われたジェームズタウン建都300周年を記念する博覧会で展示されたものという内容が書かれていた。 CNNが報じたところによると、この断片の偽物が多く出回っていることを知っていたムーアは2週間入札を控えたが、慎重に検討した結果、断片とメモの経年具合で本物と判断。最終的には1700ドル(約26万5000円)で落札に成功した。彼にとっては高い買い物だったため、当初は妻に黙っていたという。
テントの断片入りの額を受け取ったムーアは、ジョージ・ワシントンの寝袋と執務用テントを所蔵するフィラデルフィアのアメリカ革命博物館に連絡した。断片を見た学芸員のマシュー・スキックは興奮を隠せない様子ですぐに調査を始め、同館の保存修復師が生地の織り目と赤いウールの縁取りを調べたところ、本物であることを確認したという。 調査の結果、この断片は、アメリカ独立戦争中にワシントンが生活用のテントとして使用した「ダイニング・マーキー」の端から切り取られた可能性が高いことがわかった。そしてメモの事実関係を調べたところ、実際に1907年の博覧会に、ワシントンの妻の曾孫であるメアリー・カスティス・リーがテントを貸し出しており、ジョン・バーンズという人物がテントの一部を記念に切り取っていたことが明らかになった。 学芸員のスキックは今回の発見について、「(リサイクルショップという)ありそうもないところから出てきた事に興奮します。それにしても、グッドウィルからこれほどの歴史的なお宝が出てきたのは、これが初めてではないでしょうか」と語った。 アメリカ革命博物館は、この断片を「Witness to Revolution: The Unlikely Travels of Washington’s Tent,(革命の目撃者:ワシントンのテントの思いがけない旅)」と題する展覧会で展示している(2025年1月5日まで)。 展覧会終了後に額はムーアに返還されるが、同館は引き続き、特にバーンズと断片の歴史にまつわる調査を続けるという。 この断片の価値は、少なくともムーアの購入金額の10倍以上となる数万ドルとされ、彼の妻は、今ではこの買い物に満足しているようだ。一方、この歴史的なテントの切れ端を所有する唯一の民間人と考えられるムーアは、「夜になると寒気がする」という。それは、断片の金銭的価値や情報が一気に広まったからだけでなく、「イギリスの支配からの脱却と、アメリカという国の始まり 」に断片が立ち会っていたという史実に対してだ。「背後にある歴史、たとえばあのテントの中で語られたことや情報を想像すると、鳥肌が立ちます」とムーアは語る。
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