福島・南相馬出身の31歳、仙台にフランス料理店 原点は原発事故避難時の「炊き出し」だった
仙台市青葉区大町2丁目に、フランス料理店「fill(フィル)」がオープンした。オーナーシェフの木幡圭吾さん(31)は福島県南相馬市で東京電力福島第1原発事故に遭い、余儀なくされた避難生活で飲食業の道を志した。古里の復興を見守りながら料理人として経験を積み、いつしか芽生えた「おなかと心を満たす店」の理想を形にした。(経済部・横山浩之) ■40歳までに古里で出店目指す 青葉通近くにある20席の小さな店は10月上旬のオープン後、女性客を中心に連日にぎわう。看板メニューは「マグロのうなじ」(1300円)。マグロの希少部位をサラダ風に仕立てた一皿が人気を集める。 13年前、JR常磐線の小高駅近くにあった木幡さんの自宅は、地震の強い揺れで半壊。津波の被害は免れたものの、福島第1原発が水素爆発する音を聞いた。 通っていた小高工高(南相馬市小高区)が避難区域となり、サテライト校が開設された同県二本松市に避難。意図せず、イタリア料理店でアルバイトを始め、料理の世界と巡り合った。 卒業後は飲食業を志して仙台市の調理専門学校に進学した。2014年に上京し、都内のレストランで働いた後、16年にフランスへ渡り1年間修業した。帰国後は都内の別のレストランで独立に向け腕を磨いた。 この間、半年に1回ほどは母が暮らす南相馬市に戻った。沿岸部の復興は目に見えて進んだが、原発事故直後に全住民が避難を強いられた古里に、人の姿はなかなか戻らなかった。 30歳を目前にした頃だった。店を持ちたいと考えるうち、避難中に炊き出しをする飲食店の前に多くの人が並んだ光景がよみがえった。「当時の自分は与えられてばかりだった。今度は自分が食を通じて恩返しがしたい」。心の中で強い思いが膨らんでいった。 コロナ禍を経た今年1月、仙台市に移り住んで開業準備を始めた。仙台商工会議所と日本政策金融公庫の創業支援制度を利用。「宮城の海産物に一手間を加えた料理で心を満たす」という店のコンセプトを固め、店名をfill(満たす)と決めた。 まず仙台で足場を築き、いずれ40歳までに南相馬で店を出すつもりだ。木幡さんは「食は観光資源にもなる。レストランでも物販でも飲食業で地域の助けになれればいい」と話す。
河北新報