「日高屋化」する幸楽苑 ラーメン店から町中華へのシフトで復活できるか
斬新な施策もあったが、店舗数は大きく減少
半面、幸楽苑は土俵際で辛くも残ったといえよう。昇氏が社長だったころは、客層の若返りや女性客の取り込みを図り、さまざまな施策が打たれた。原理原則にとらわれない発想によるものもあったが、最終的に深刻な顧客離れを招いてしまった。 例えば2019年11月には、静岡県富士宮市にラーメンやコーヒーを楽しめる初のカフェ業態「KOURAKUEN THE RAMEN CAFE」をオープン。しかし伸び悩み、2022年10月に閉店した。 他にもロッテとコラボして、バレンタインデーにちなんだ期間限定商品として3年連続で販売した「チョコレートらーめん」、餃子と「雪見だいふく」に、カラースプレーのチョコやカラメルソースをかけて「コアラのマーチ」を乗せた、恐らくもう二度とはお目にはかかれない、冒険的な商品「パニックde餃子with雪見だいふく&コアラのマーチ」などが思い起こされる。他の企画では、ラーメンに雪見だいふくを入れたり、雪見だいふくをチャーシューで巻いたデザートを提案したりもした。 2023年1月にはユーグレナとのコラボで、鳥羽周作シェフが監修した「ビーガン餃子」を発売。インバウンド客に多いビーガンだが、幸楽苑でインバウンド客が来るような都心部立地の店は秋葉原店くらいしかなかった。つまり、業態にマッチしていなかった点が残念だった。 他社の勢いがあるフランチャイズ(FC)に加盟し、不採算店を「いきなり!ステーキ」「焼肉ライク」「赤から」などの業態に転換していったのも悪手だったといえる。最初は好調に推移したが、いきなり!ステーキの失速が著しく、2020年3月末に16あった店舗は、現在全て閉店している。 こうした経緯もあり、かつてホールディングスで500以上あった店舗は、2024年3月末時点で389まで減少している。
コロナ禍からV字回復を果たした日高屋
日高屋は、2024年2月末時点で直営店が449店、全体では455店ある。餃子が主力の「餃子の王将」、長崎ちゃんぽんの「リンガーハット」を除外すれば、ラーメン業界で最大手のチェーンでありながら、首都圏1都3県に店舗が集中している関東ローカルのチェーンといえる。 1号店をオープンしたのは、2002年。以降は怒涛(どとう)の出店を続け、一気にラーメン業界の頂点にのし上がった。幸楽苑の290円に対して、日高屋の中華そばは390円。幸楽苑とともにデフレの勝ち組として、経済が低迷する日本で業績を伸ばした。中華そばの390円という価格は堅持し、今や幸楽苑より安くなった。2010年頃からは「野菜たっぷりタンメン」が新たな看板メニューとなり、ヘルシーなイメージも持たれている。 日高屋は駅前立地の店舗が多く「屋台」の代わりがコンセプトであり、幸楽苑の勢いが止まってからもちょい飲み需要を前面に出して好調を維持した。長らくビールと餃子、中華そばで1000円以内の価格設定にこだわっていた。 しかし相次ぐ値上げにより、現在は生ビールと餃子、中華そばを頼むと1000円を超える。とはいえ餃子を3個、あるいは中華そばを半ラーメンにすれば1000円を切る。 長らく業界の勝ち組だった日高屋だが、コロナ禍では鉄道の利用が激減し、飲酒の場が感染源になるとして規制されたのは痛かった。2020年2月期に約422億円だった売り上げは、2022年2月期には約264億円まで大きく減少。営業損失も2021~22年度にかけて巨額となったが、2023年2月期は黒字に転じ、約6億円の利益が出た。 2024年2月期決算にはV字回復を果たし、売上高は約487億円、営業利益は前期比653.2%増の約46億円、経常利益も同92.5%増となる約47億円、当期純利益は同112.8%増の約32億円と、過去最高の売り上げ・利益を更新した。