「日高屋化」する幸楽苑 ラーメン店から町中華へのシフトで復活できるか
メニュー拡充で活気を取り戻しつつある幸楽苑
幸楽苑HDの2024年3月期決算説明会で、新井田傳会長兼社長は「欧州では事業を100年続けて初めて評価される。幸楽苑も100年企業を目指している。その延長上に私の長男がおり、将来を託したが、4~5年の短い期間で業績の悪化を招いた。3連続営業赤字の決算で、その責任を取って社長職を辞したいとなり、私の出番となった」と、再登板の経緯を説明。加えて「当時のメニューは原理原則から逸脱しており、このメニューでは売れないと判断し、メニューの作り直しから入った」と、原点回帰のメニュー改革から事業再建を始めた。 食材の値上がりがのしかかり、メニューの値上げも急務だった。主力のラーメン価格を490円に据え置きながら、利幅のあるセットメニューを数多く作って、値引きする方針で臨んだ。値上げラッシュの中で「お得感」に評価が集まり、結果として顧客が戻ってきている。ほとんどの店で、ランチのピーク時に行列ができるようになった。ディナー限定のメニューでは客単価が10円強上昇しており、いわゆる「ちょい飲み」も視野に入れた「中華ダイニング」メニューも好評だ。 その他、ラーメン業界の新たな流行である「釜玉ラーメン」を取り入れたメニューの展開や「煮干しらーめん」「背脂中華そば」、期間限定の「鶏白湯らーめん」「冷麺」を発売するなど、ラーメンのラインアップも豊富になっている。こうした取り組みを踏まえ、新井田傳社長は「黒字決算を積み重ね、業績好調を自慢できる会社に育てたい」と抱負を述べている。
「出自」の異なる親子が経営してきた幸楽苑
現在、幸楽苑HDの社長を務める傳氏と前社長の昇氏は、親子でありながら犬猿の仲といわれてきた。傳氏は父が開業した中華食堂「味よし食堂」を18歳で引き継ぎ、「幸楽苑」と改称した上で2003年には東京証券取引所第一部へと上場(現・東京証券取引所プライム上場)。290円と超安価な中華そばを販売し、デフレの勝ち組となり、一世を風靡(ふうび)した。 町中華で修業をした、いわば職人である傳氏に対して、息子の昇氏は慶應義塾大学経済学部から三菱商事へとエリートコースを進んだ秀才だ。その後、幸楽苑に入社。数々の経験を積んだのち「デフレ脱却」というテーマを託され、副社長だった2018年に社長へと就任した。 職人から叩き上げたチェーン店の敏腕社長に、高学歴エリートである後継者、さらに親子で仲が悪いというと、インテリア業界の覇者だった大塚家具を思い起こさせる。 大塚家具の創業者・大塚勝久氏からバトンを受け継いだ娘の久美子氏は一橋大学経済学部から富士銀行(現・みずほ銀行)に就職し、国際広報業務に携わっていたキャリアウーマンだった。久美子氏は2009年に社長へ就任するが、業績は低迷。2019年にヤマダ電機(現・ヤマダHD)の傘下に入り、その後は吸収合併されて、栄華を誇った大塚家具は法人として消滅した(ブランドは存続)。