フェンシング日本代表の見延和靖が目指す極意「相手が突かれてしまったというフェンシング」…単独インタビュー
パリ五輪フェンシング男子エペ団体で銀メダルを獲得した見延和靖(37)が18日までにスポーツ報知のインタビューに応じた。五輪では出場した団体4種目でメダルを獲得した日本フェンシング界のベテランは、11月からW杯を転戦するなど新シーズンが始動。「極意を見つけ出す」と新たな一歩を踏み出した。37歳を支えるのは、深い探究心と繊細な感覚。剣技だけにとどまらないこだわりも明かした。 * * * * * * * フェンシングの本場、パリで躍動した日本代表。男子エペ団体は、2大会連続でメダルを獲得した。16年リオ大会から五輪を知る見延。日本フェンシングの進化に、実感を込める。 「個人で出場したリオでは、やはりチームで出たい、団体戦こそが日本代表ということをより感じられると思いました。東京五輪は男子エペで金メダルを取り、パリでは再び決勝まで進んで日本がフェンシングの強豪国と世界で認知される結果となった。強化がエペ以外にも広がり、日本としてチーム力を上げるという、僕が望んでいた状況に来ていると感じます」 東京大会では金メダル。その達成感から、3年前は虚無感に襲われた。だが今回は、銀メダルだった悔しさも含めて、現役続行に迷いはなかったという。37歳での再出発。見延は、剣士として新たな境地に挑もうとしている。 「今の一番の目標は、フェンシングの極意を見つけ出すこと。以前は勝ちたい思いが一番でしたが、五輪でメダルを取ってもいいフェンシングが出来たかと言われると、必ずしもそうではない。調子がよくても、勝てない時もあります。自分の感覚とは一致しないことに、違和感が出てきました。よりフェンシングを理解したいと、思うようになりました」 フェンシングへの理解―。コンマ一秒の駆け引きの中、見延はこれまで、相手の胸の内を探り剣を交わしていたという。ただそれは「自分本位。そのフェンシングをやっている内は、競技を理解しているとは言えない」。達人の域とも言える、新たなスタイルを目指している。 「言葉で表現すれば『(相手が)突かれてしまった』というフェンシング。相手が『あれ、たまたまかな。なんで負けたのかな』という感覚。僕が突きたいから突かれた、という自分本位のスタイルではない。距離やタイミングを極めていくと、相手が前に出てきた瞬間に自ら僕の剣に突かれにいってしまうような、そういう間合いがあります。それを自分の型、ロジックに落とし込みたい。極めて感覚的なことですが、このスタイルを型に落とし込むというのは、誰もやったことがないと思う。この4年は、その落とし込みの作業になるかなと思っています」 頭で判断する間もなく、体で反応する―。鋭い感覚が必要な競技者として、見延は自身の五感を研ぎ澄ませる。休日は都心を離れ、自然の中でリフレッシュ。身に触れるものだけではなく「匂い」にもこだわりを持つという。現在は「KAORIUM」を活用して、オリジナルアロマを作成。海外遠征などで、コンディショニングに役立てている。 「僕は、試合モードに切り替えるために香りを取り入れています。香りと記憶は結びつきが強く、嗅ぐとスイッチが入る。自分のアロマを作る際のテーマとしたのは『雅(みやび)』な香り。日本の和と、フェンシングという貴族のスポーツを連想させる香りです。リラックスの中にも、ほどよい緊張感を作り出せる。遠征先のホテルに着いたらまず換気し、アロマを使って部屋をその香りにします。フェンシングは、精神面がとても重要な競技。自分の香りを嗅ぐことでスイッチが入ると共に、平常心でもいられます」 見延は、11月のW杯転戦から本格始動。28年にはロス五輪を控えるが、出場すれば自身4度目の夏の祭典は、最大の目標ではないという。15年11月に日本勢初のW杯優勝をはじめ、19年には同じく初の年間王者になるなど数々の記録を打ち立ててきたからこそ、見据える目標がある。 「これまでは、勝つことや日本人初というところに価値を感じていたけど、その目標はほぼ全て達成してしまいました。これからは、そういう『点』の目標のためにフェンシングをするより、自分にしかできないことを突き詰める方が面白いなと。フェンシングの極意を見つけるために歩み続ける中で、その道沿いにロス五輪があれば尚いいかな、と思っています。これからは、自分にしかできないことを成し遂げていくことが、課せられた使命なのかなと思います」
報知新聞社